初めての北海道。目的は大雪山の縦走です。
兼業山屋の私には日程に制限があるので、今回は黒岳から北鎮岳を経由して旭岳までのショートコースを縦走する予定でした。
日帰りでも可能なコースですが、大自然の中でゆっくりテン泊して、北海道の最高峰と第二位の北鎮岳を踏もうと、楽しみにしていました。
結論から言ってしまうと、悪天候によりプラン変更となり、旭岳のみをピストンしましたが、縦走プランも紹介しようと思います。
旭岳の概要
旭岳は、北海道のちょうど真ん中、大雪山国立公園の北端に位置します。
大雪山連峰というのは火山群の総称だそうです。
アイヌ語で「カムイミンタラ」と言って、「神々が遊ぶ」庭と訳されています。直訳するとその通りなのですが、実際は「ヒグマがよく出るところ」という説もあります。アイヌ文化ではヒグマが神の化身と考えられています。
どちらにしても人知の及ばない畏怖の山でしょう。
標高は2,291mで北海道で一番高い山になります。
日帰りでの一般的なアプローチは旭岳ロープウェーを利用することで、往復4時間程で登ることが可能です。
東京からのアクセス
7/13、成田から新千歳へひとっ飛び。
一番近い空港は旭川空港なのですが、lcc(ローコストキャリア)といわれる格安航空会社を利用しましたので、成田発、新千歳着というルートになってしまいました。
おかげで我が家から成田までの陸路の方が時間がかかってしまい、北海道ではレンタカーでひたすら走りました。
登山用ガスボンベは空港で買える
新千歳空港内の土産物屋でイワタニのガスボンベを購入します。
飛行機はガスボンベが持ち込めないし、宅急便もおなじく航空便なのでNG。
大抵の空港にはイワタニのガスボンベを取り扱うショップがあります。
イワタニプリムスのホームページで販売店が見られるのでチェックしてみてください。
縦走プラン
一番メジャーでやりやすい縦走プランは、
・一日目
①旭岳の反対側、黒岳(層雲峡が登山口でロープウェイが使えます)からスタート
②一時間ちょっとの黒岳石室でテント泊
※行動時間は1時間ちょっと
・二日目
①北鎮岳(北海道では標高第二位)を経由して旭岳登頂
②旭岳側の旭岳ロープウェイに下山
※行動時間は6時間程
いつかトムラウシ~旭岳に挑戦してみたいと思います。
・縦走のポイント
車は登山口の層雲峡から、下山地点の旭岳ロープウェイ乗り場まで、「山岳好歩」という会社が回送してくれます。今回のコースなら15000円です。
水場はありませんので担ぐ必要がありますが、黒岳石室で販売もしています。また要煮沸ですが、天水タンクもあります。
北海道の沢水はエキノコックスの恐れがありますので、タンクの天水なら安心です。
さて、話を元に戻して、新千歳空港からレンタカーに乗り込み、黒岳の登山口である層雲峡へ向かいます。道が広く真っ直ぐなので速度超過に注意が必要です。層雲峡のホテルは外国人観光客で賑わっていて、世界的に北海道の人気が伺えます。
この三連休、本州は烈日が燃えているというのに、北海道だけ前線が停滞しています。
ホテルにチェックインし、予め宅急便で送っておいた登山装備の荷をほどきながら、天気予報をチェックします。
テレビの天気予報では「明日7/14は曇り、時々小雨」と伝えています。
行動時間も短いし、小雨程度なら・・・小雨とガスに見え隠れする山々を見ながら登るのもなかなか素敵だな。うん、まぁいいでしょう。
ところが明後日の7/15・・・ 雨
各予報サイトをチェックすると・・・
てんくらでは、曇りのち雨
ヤマケイでは雨時々曇り
Mountain forecastでは雨
SCWは強い雨雲が!
有料のヤマテンでは、激しい雨で雷まで。
何度も何度も予報をチェックしますが、結論は雨。それも行動時間中が一番強く降り、旭岳の北側は強風と伴う可能性も。
せっかく北海道まで来たのに。
諦めきれませんが、無理したら事故につながってしまいます。
北海道なんてなかなか来ることができないけど、またの楽しみにすればいいか、と自己欺瞞と戦います。
結局、旭岳ロープウェイを利用した短時間ピストンに変更しました。
というわけで、7/14朝。
ホテルの朝食バイキングで一人フードファイトを繰り広げていると、縦走を諦め切れないパートナーはスマホで天気予報をチェックしながら食べているので、口の周りにジャムをつけたり、テーブルにこぼしまくって恥ずかしい(笑)
層雲峡から旭岳ロープウェイまで車の回送サービスを頼んでいましたが、これもキャンセルしました。
回送サービスは「山岳好歩」という会社で頼めます。
キャンセルも無料でできますので、北海道の縦走にはおすすめです。
層雲峡から旭岳ロープウェイ山麓駅までは車で1時間ちょっと。
鹿飛び出し注意の看板や、豪雪地帯ならではの縦並びの信号が窓の外を流れていきます。
旭岳登山ルート
9:30、大雪山旭岳ロープウェイ山麓駅からスタートです。
駐車場は500円。ちょっと手前には無料の駐車場もあります。こんな天候のためか空いています。
ロープウェイの料金は往復で大人2900円。
ちょっと高めの値段設定ですが、ロープウェイを使わない遊歩道ルートもありますが、最近ヒグマが目撃されているようなので、素直にチケットを購入します。
10分程の空中散歩で姿見駅です。
ビジターセンターがありますので、登山届はここで提出します。
他にも、お花や動物の情報や、ヒグマの情報も入手できます。
あ、もちろんここでの情報は最終的なもので、事前に十分に地図を見たり、情報収集しておかないといけませんね。
姿見駅は標高1610mです。
※注意!
トイレはここから先にはありません。
念のため携帯トイレを持参しました。
携帯トイレとツェルトがあれば、最悪の事態(ご想像におまかせします)はなんとか回避できそうです(恥)
携帯トイレのレビューはこちら↓
雨とガスに煙る天空の庭。
北海道でも今は夏。まばらだけど粒の大きい雨がパラパラとウッドデッキを叩きます。
仕方なくカッパを着込むと、ムッとする湿気が肌にまとわり付きます。
旭岳の雄姿は雲に隠れています。
南西から北東へ移動し続ける雲の流れ。天気予報の通り、空模様は徐々に回復するはずです。
靴紐を締めていたら一気にガスが消え、大草原のお花畑が広がります。
また脱ぎ着するのも面倒ですが、汗をかくのは嫌なのでカッパを脱いでザックに突っ込みます。
こんな天候のときはソフトシェルが便利ですね。多少の雨なら弾いてくれますし、汗の抜けも良いので、快適です。
遠く緑の斜面を望むと、小さな雪渓が山肌に点々と残り、まるで草原に羊が寝ているようです。
艶々と雨で濡れた木道の先、姿見池までは、観光目的のお客さんも周遊できる探索コースもあります。
目に見えない細かな粒子となったガスに反射した白い光に包まれる姿見平から。
念願の北海道のてっぺん、
大雪山旭岳、いざゆかん!
まずは整備された遊歩道を進みます。
これだけガスっていてもベタベタしないのは、北海道だからでしょうか?
ちょっとした小川を越え。
お花畑をゆったりした気持ちで進みます。
チングルマ
白い花弁に黄色い雄蕊が可愛らしい。高山に来た実感が。
コケモモ
エゾコザクラ
ほかにもたくさんのお花が雨露に濡れて可憐に出迎えてくれます。
日本アルプスでは標高2000mを超えている生態系です。
今日みたいに 天気が悪くて景色が見えなくても、お花を見たり、山の歴史を考えながら登るのも楽しいですね。
また今回のように短時間の山行では、写真を撮る練習も、じっくり時間を使うこともできます。
15分ほどで姿見の池です。
空はまだ灰色で、池の色も鈍く見えます。
観光のお客さんも多く、楽しそうに写真を撮っています。
池の横には避難小屋の旭岳石室があります。
石を積み上げた興味深い山岳建築。
ここは緊急用ですので、宿泊はできません。
石室の裏には携帯トイレを使うブースがあります。
ここから山頂まではずっと登りです。
すでに森林限界。
「道迷いに注意!」の看板もあります。
基本的に尾根歩きですが、広いので視界不良時は要注意です。
若干雲が薄くなってきました。天候回復の予感。
爪先上がりの坦々とした径を、時折の微風を受けながら行く楽しさ。
硫黄の匂いが強くなってきました。
左手の地獄谷は、赤茶色の岩肌が所々クリーム色に変色し、噴気孔から温泉の蒸気が幾筋も吹き上がって風になびいています。
高山植物と荒々しい火山の対比が独特の景観は、無制限な、おおどかな、荒っぽくて、新鮮です。景色の情緒はただ身にしみるように本源的です。
登山道は、小さな砂利と砂の道です。
日頃岩場歩きばかりなので、比較的歩きやすいです。
「よっこらせっ!」と大股でよじ登るようなところもほとんどなく、小柄な女性でも苦労が少ないと感じました。
その反面、ハイペースになり、息が上がってしまいます。
真珠色の雲が流れ去った瞬間、前方にピークが見えます。
朝の柔らかな眼がしみじみとそれを眺めます。
雄大な山容はそれほど急峻ではないですが、大きい分、天空にそびえる城壁を思わせます。
長野の山に例えるなら、常念岳の上部のような岩の雰囲気に、乗鞍岳のような雄大なスケールです。
六合目の標識。
ここから上は標識があるので励みになりま・・・・せん!
なかなか次の標識にたどり着かない(汗)
初夏の潤んだような虚空に、雲が早足で駆け抜けていきます。
七合目。ここから径はさらにガレてきます。
石が黒ずんでいるところはあまり人が歩いていないので、浮石が多いので要注意です。
八合目。一瞬「八」が「六」に見えて焦りました(苦笑)
前方がガスで見えないほうが早く進んでいるように感じます。
斜面の遠くで輝くものが見えます。
近づいてみると、露を纏い宝石のようにチラチラ光を反射する植物でした。
キンバイ系かな?
金庫岩が見えてきました。
空には雲があっても遠くへ広がり、尋常の尺度にはまるで桁が外れているようです。
九合目
細い道。片側は落ちています。
それほど危険はありませんが、油断したり、無理にすれ違ったり、視界不良のときは踏み外さないように注意が必要です。
金庫岩の手前の鞍部には、小さな庭があります。
この画像の右奥にニセ金庫岩があります。視界が悪いときは間違わないよう要注意です。
雲の切れ間から陽光がスポットライトのように差し込むと、小さな舞台のような雰囲気。まさにカムイミンタラですね。
この先を左から巻いてピークを目指します。
金庫岩
一歩一歩。
もうちょい!
長い登りに辟易してきた頃、いきなり視界が広がると、
登頂です。
周囲はガスに隠れています。真っ白い空間のその向こうに北海道の壮大な広がりと奥行を感じます。
目を閉じると、瞼に感じる風が見えます。
歩行時間は短いですが、達成感がじわじわと押し寄せてきます。
思えば東京からはるばる飛行機に乗って、北海道まで。
世界的な観光地でもある北海道で、観光もせず山に登るなんて、数年前の自分では考えもしなかったでしょう。
いや半年前だって考えなかったです。
だって東京から車で数時間走れば日本アルプスがあるし。
いつも登る長野では、登頂した天辺から見える、また別の未踏の頂への昂ぶりだけでも、「あそこも登りたい」、「次は違うルートで」なんて考えて時間がぜんぜん足りないんですから。頭の中は長野オンリーでした。
登山をしていていつも思うのは、地べたに足を付けてゴールすることが好きだっていうことです。単に標高だけの到達点が目的ならヘリコプターでもいい。上から見下ろしたり俯瞰するのではなく、汗かいて、自分の足で這いつくばって、彷徨いながら見たり、素手で掴んだものは、実際にやった人だけの宝物だなって思います。
その瞬間、瞬間の軌跡から自分が作られていく感覚はとても面白く感じます。
登山をきっかけにアイスクライミングやバックカントリースキーもチャレンジしたし、環境問題についても考えるようになりました。
今回の北海道登山も同じですね。
まさか北海道に来るなんて考えもしなかった。
来年の今頃は何をしているのかな?
大人になってもこんな風に考えられる登山って素敵だなって思います。
ガスが晴れると、当初の予定では向こうから来るはずだった摺鉢平~黒岳方面の大観が姿を現しました。
谷に逆巻いて散り散りに残った雲にさえ嫉妬してしまう。やっぱりこの瀰漫でテント泊したかったなぁ。
さて、ピークは結構広いので、ここで昼食にします。
縦走用に空港で買ったガスがありますので、使わなきゃ。
今日もコンビニのおにぎりとカップ麺。
パートナーはクライマー風にカレーヌードルにシーチキンのおにぎりを投入しています。
晴れていたら360°のパノラマが広がるはずです。
風が出てくると汗が冷えてかなり寒い。
シェルを羽織り、食後のコーヒータイムを楽しみます。
ザックからお菓子のアンパンを出していたら!!!!(そもそもアンパンはお菓子じゃねー!ってツッコミはご遠慮願います)
ギャーーーー!!!
小さなネズミがザックの下から出てきました!
驚いてタコ踊りのように暴れ転倒する私。
私が吹き出した毒霧byグレート・ムタ(単なる熱々コーヒー)を顔面に浴び、リング(と言う名の山頂)に倒れ込むパートナー。
カムイミンタラが大惨事です。
こんな山頂にネズミがいるなんて。
転んでもアンパンだけは咄嗟に死守しようと、酔拳のパンチのフォームで地面に手をつきました。おかげで手の甲を擦りむく(泣)が、パンは無事也!破!
風景が薄ら寂しくなり、かなり身体が冷えてきました。
時折見えていた摺鉢平方面も全く消えて、大自然は失明した美女のようになります。
山頂に残ったのは私たちが最後になったので、名残を山頂に瀰漫させ、ゆっくりと下山します。
奥に写っているのが「ニセ金庫岩」です。ロープがなかったら確かに間違えそう。
眼下には山谷が皺を畳んだ幾里の彼方まで続いています。
その山々谷々を、さらに海峡を超えた本州の山々まで、また越えていくだろう自分。どの山に登るかはわからないけど、やがて心に期して振り返った時、つながっている青空に、この旭岳の山頂を思い浮かべたとき、その気持ちは寂しいのか、嬉しいのか。下山時はいつも複雑な心境になります。
それでも標高を下げるにつれて、下山後の温泉や北海道のグルメが頭を支配し始めます。
そうすると足は心の半分と一緒にこの降りを喜んでいますが、眼は心のもう半分とともに遠ざかる山頂を愛惜します。
砂利と砂を蹴るビブラムソールの感触と音。
空は自分より下にあって、青と白のだんだら。
気まぐれに吹く風が、身体の熱気をさらって心地よい。
見事に露出した火山砕屑岩の断面。
振り返ると旭は再びガスに包まれてしまいました。
本当に広い。広がりの把握に苦しみながら無意識に「来てよかった」とつぶやきます。
カムイミンタラ、イヤイライケテ!(大雪山、ありがとう)
旭岳 コースタイム
<登り>
ロープウェイ乗車時間・・・10分
ロープウェイ姿見駅→姿見池・・・15分
姿見池→六合目・・・20分
六号目→七合目・・・20分
七合目→八合目・・・20分
八合目→九合目・・・20分
八合目→金庫岩・・・10分
金庫岩→旭岳山頂・・・10分
<下り>
旭岳山頂→姿見池・・・1時間30分
姿見池→ロープウェイ姿見駅・・・15分
※小休憩、写真撮影の時間を含んでいます。
まとめとポイント
ロープウェイを使えば、歩行時間は往復4時間程度です。
山頂での休憩時間も余裕があります。
天気が良かったら、中岳の温泉にも立ち寄りたいと思いました。
ポイント①熊について
ただし中岳温泉付近はヒグマ出没注意だそうです。
北海道の山ということで、ヒグマの情報はあらかじめ調べておきました。
旭岳のピストンルートは登山者が多いので、ヒグマはほとんど出没しないそうです。
また、熊鈴の効果は、熊の個体次第だそうです。
まとめると、
・人間の怖さを知っている熊→効果アリ
・人間を知らない若い熊は好奇心旺盛→効果なし
・子連れの母熊はかなり神経質→効果?
熊鈴以外では、ラジオの音がありますが、最近の熊は聞きなれてしまっているという説や、人間が大勢いるように聞こえるので効果があるという説もありました。
マタギさんの情報によると、熊の「慣れ」に関しては、空のペットボトルを手でベコベコ慣らすと良いということでした。
最後の手段は熊スプレーがありますが、時速60キロで突進してくる熊をスプレーの射程距離3mまでに取り出して、安全装置を外して発射するなんて、私には自信ありません。
いずれにしても熊の習性について事前に勉強しておくことが大切だそうです。
ポイント②難易度について
他のルートについては、健脚な方なら北海道標高第二位の北鎮岳や、黒岳までの縦走も日帰りで可能な範囲です。
穂高連峰など岩場歩きに慣れている方なら、難易度は感じないと思います。
初心者の方のステップアップにもおすすめできます。
傾斜も緩く登山道もフラットな反面、視界不良時はルートを外れ、踏み外したり、落石してしまう危険性は感じました。
特に金庫岩以外にランドマークがありませんし、偽の金庫岩がありますので、必ず地図とコンパスで確認する必要があります。
数人ジーンズにスニーカー姿の人を見かけました。
濡れたら乾きませんのでしっかりした服装と装備が必要です。
ポイント③携帯トイレ
ルート上にトイレはありません。ロープウェイの姿見駅が最初で最後のトイレになります。
携帯トイレは持っておくと良いと思います。
隠れる場所も石室以外にはありませんのでツェルトもあると安心です。
水場もありませんので、必要量+α担ぐ必要があります。
まとめ
何よりも、「カムイミンタラ(神が遊ぶ庭)」というだけあって、前半のお花畑、火山特有の荒々しさ、雄大なスケールの尾根歩きが魅力の山でした。
是非また来て、今度は縦走したいと思います。
北アルプスでは焼岳に雰囲気が似ていますね。