・宝剣岳と伊那前岳を日帰りで登る
7月2日
天気:曇り(ガス)、強風
・登山ルートの概要
宝剣岳は、中央アルプス最高峰、木曽駒ヶ岳の登山拠点である千畳敷カールから見上げると、ギザギザのサギダル尾根から一際目立つ尖った岩峰です。
標高は2931m。
何処から見ても一目でわかる険しい岩場の山です。
多くの方は、木曽駒ヶ岳の登る際に併せて挑戦していますが、今回は宝剣岳のみにクローズアップして紹介します。
・宝剣岳 登山ルートの詳細
ここは何度来たことでしょう。
本当に大好きな中央アルプス。
夏も厳冬期も、どの季節に訪れてもその魅力は尽きることがありません。
アクセスは麓の菅の台バスセンターからバスとロープウェーを乗り継ぎます。
登山シーズン前ですので、まだ5時からの便はありません。
季節ごとにバスの始発の時間が変わりますので、詳しくは駒ケ岳ロープウェーのHPでご確認ください。
今日の始発は7:00。
隣に並んだおじさまと情報交換をしたり、車中泊で熟睡できなかったためか、うとうとしながら、ベンチで待ちます。
バスに乗車し、膝に乗せたザックに顔を埋め仮眠しようとしますが、バスのアナウンスにこれからの登山の期待が膨らみます。
30分でロープウェーの起点、「しらび平」に到着し、そこからロープウェーで約7分間の空中散歩を楽しんだら、日本で一番標高の高い場所位置する駅、千畳敷に到着です。
ホテル千畳敷が併設された駅舎にて登山届を提出し、外に出ると、
雨混じりのガスが強風でカールに流れ込み、辺り一面真っ白です。
遭対協の方が登山者に注意喚起しています。
稜線は強風なので注意するよう。
当初は極楽平から宝剣を越える予定でしたが、極楽平まわりの上部は風が強いと厄介なので、安全を優先し八丁坂から乗越浄土を経由して行くことにしました。
梅雨で雪が解け、いよいよ夏山シーズンが到来した千畳敷。
今日は乳白色の中に、薄らお花畑が見えます。メルヘンの世界に迷い込んだようです。
信州駒ケ岳神社の鳥居をくぐり、登山の安全を祈願して遊歩道を進みます。
整備された遊歩道は、いつもは観光客で賑わいますが、今日はほとんど人がいません。
ハクサンイチゲが満開です。
こんな天気のときでも、遠景は望めなくても、いつもは通り過ぎてしまう足元のお花が目を楽しませてくれます。
一面に広がるシナノキンバイも、強風で頭を揺らしながら可憐に咲いています。
遊歩道はすぐに登山道の起点、八丁坂の分岐につながります。
このまま遊歩道を進むと、カールを一周して剣ヶ池を経由して千畳敷に戻ります。
観光客が間違えて、あるいは軽い気持ちで八丁坂登山道に登ってきてしまう姿をよく見かけます。
スニーカーにジーンズ姿では、雨に濡れてしまったら大変です。
ルートは左手の八丁坂に入ると、勾配がきつくなってきます。
ここにに来るといつもそうなのですが、テンションが上がり過ぎて、序盤からかなりハイペースになってしまいます。
乗越浄土まではどんどん勾配が増し、上部はボトルネックになっているので強風が集まりますが、積雪期を除けば危険は少ないです。
真っ白い空に向かって標高を稼ぎます。
おなじみのオットセイ岩が見えてくると、もう少しで乗越です。
少し前までは雪の下に埋もれていた階段。
装備も軽いため、スタートから30分程で乗越浄土に到着しました。
快晴なら360°のパノラマが広がるはずですが、今日は一面が真っ白。
寂しい景色を風が音を立てて通り過ぎていきます。
宝剣岳もガスの中に隠れてしまっています。
ガスが薄まるのを待つため、宝剣山荘にお邪魔して、コーヒータイムとなりました。
宝剣山荘は、青い屋根が特徴の可愛らしい山小屋で、オリジナルグッズや手ぬぐいなど、お土産も買うことができます。
支配人さんも変わらず元気そう。
石油ストーブの匂いと、発電機の音。
窓の外を眺めると真っ白いガスが次から次へと真横に流れていきます。
コーヒーはもちろん、軽食やソフトクリームもおすすめです。
宿泊すると、ボリュームたっぷりの美味しい食事によるは、見ていると酔うほどの満点の星空。
トイレはチップ制で200円です。
ガスはまだ晴れないか、と頻繁に外の様子を見ていると、ガラガラと山荘の扉が開き、宝剣岳から降りてご夫婦が入ってきました。
ご挨拶をして、上の情報をお聞きすると、岩もそんなに滑らず、何より貸切状態とのことでした。
よしっ、と靴紐を閉め直し、ヘルメットを被ります。
スリングで簡易ハーネスを作り、
宝剣岳、いざゆかん!
実際はハーネスでセルフビレイを取りながら登っていたら渋滞になってしまいますので、通常は必要ありません。
以前爆風の中、しばらく岩に張り付いてやり過ごしたことがあったので、保険として装着します。
ちなみに私がいつも持参するのは定番のロックエンパイアの20mm幅の120センチスリングです。
ダイニーマ細いやつは身体に食い込むので、20mm幅が使いやすいです。
最初は緩やかな岩稜の丘を登ります。
「滑落事故多発」の看板。
こちらの北側からのルートでも、岩場登りの基本的な技術は必要ということですね。
例えば、
・視界不良になり、ルートを外して、難しい方へ出てしまう。
・クサリを頼って、雨が降りだし、クサリがツルツルに滑る。
・当然岩も滑りやすくなる。
・足を挫いて歩行がおぼつかなくなる。
このような状況になったときの対応力が求められるという意味で上級者コースなんですね。
滑落事故も多いですし、落雷による事故の話も聞きます。
充分気をつけなければ。
岩につけられた〇印を見ながら進むと、凍結破壊作用で割れた花崗岩群の中を進みます。
ここから先はクサリ場の連続になります。
ステップも広く、鎖を使うほどではありません。
よく間違えて植物保護のロープを掴んでいる方を見かけますが、危険ですので間違えないように。
濡れたクサリはつるつる滑ります。
掴む場合もあくまで体幹を支える程度に。
抜けかかった植物保護の杭を差し込みます。
核心部と言えそうなのは、頂上手前のトラバース箇所です。
落ちたら最低でも重症になるだろう箇所です。
小柄な方には、最初の一歩が歩幅が大きいですが、そこをクリアしてしまえば、あとは三転確保を意識していれば難しくありません。
ホールドやステップは豊富にあるので、足捌きも問題ありません
「よっこらせっと」しっかり足をきめて登ります。
花崗岩はザラザラしているのでホールド良好です。
宝剣山荘から約15分で登頂しました。
無事を感謝し、祠に手を合わせます。
すると、次の瞬間ガスが晴れ、木曾駒ヶ岳頂上から三ノ沢まで、近場のピークが見えました。
天気が良ければ、御嶽山、南アルプス、富士山、八ヶ岳まで大パノラマが広がります。
極楽平側の記事はこちら↓
下山の時は少しずつガスが晴れてきたので、高度感が増します。
バックステップで降りる箇所もあります。
核心部のトラバース。この一歩が幅があるので、足の短さを恨みます(笑)
花崗岩の間を通り抜けると広場に出ます。
宝剣山荘まで降りてくると、ガスが晴れて絶景になりました。
伊那前岳
中岳
宝剣岳
山荘脇の風を防げる岩の陰で簡単に食事を済ませ、カフェオレを作ります
・伊那前岳のルートを紹介
遠く西の空から、もくもくと嫌な雲がやってくるのが見えます。
ガスの晴れているうちに、伊那前に向かいます。
伊那前岳は、北御所登山口から木曽駒ヶ岳に登るルート上にあります。
駒ヶ岳ロープウェイを使うことで、乗越浄土からは約20分のコースタイムで登頂できるため、宝剣岳に並び、木曽駒ヶ岳登山の際に併せて登る方も多いです。
特徴的なたおやかな稜線を進むと、ハイマツの間に引かれた砂礫の登山道が現れます。
先ほどの宝剣岳とは対照的で長閑な気持ちで歩きます。
標高2911m和合ノ頭を越えると、ずっと続く稜線はフォトジェニックです。
山頂の200m手前には、勒銘石があり、高遠藩の藩主、天山の四言古詩が刻まれています。
昔むかしの匂いが残る登山道。
木曽駒から続く馬の背
西駒山荘の見える将棋頭山。
ここは聖職の碑の舞台となった所です。
眼下には千畳敷。
観光ポスターのお馴染みのカットですね。
出発から15分で登頂です。
三角点は少し先にあります。
宝剣岳の東陵が優雅に峻立いてる姿を眺めながら、乗越浄土に戻ります。
乗越まで戻ると強風で身体が浮き上がりそうです。
「よし、木曽駒ヶ岳」と思ったのですが、またまた視界不良になりましたので、泣く泣くここで下山します。
八丁坂を下るにつれて日差しも強くなり、にじみ出る汗に、今の季節が夏だったことを思い出します。
千畳敷に戻ってきました。
・まとめ
宝剣岳が上級者コースの難易度とされているのは、イレギュラーへの対応力の意味だと思います。
ロープウェーで簡単に標高を稼げてしまうことが、良くも悪くもこの山域の特徴だと思います。
あまり山の経験がないまま、比較的簡単な木曽駒ヶ岳に登り、その勢いのまま、宝剣岳に登ってしまい、基本的な三点確保ができないと、ちょっと危ないと思います。
ルート上の核心部は、シーンだけを切り取って見れば、剱岳やジャンダルムだって同じ難易度です。
天気の悪いときは、無理せず撤退が良いと思います。
・YouTubeでみる宝剣岳↓