まだ山を始めて間もない頃、燕岳に登った帰り道、心地よい疲労感の中、目に飛び込んできた大きな山容。
気になって調べてみると、常念岳という。
今では大好きな山のひとつです。
7月下旬
常念岳/一ノ沢ルート【日帰り】攻略5つのポイント
登山口は「一ノ沢登山口」。
標高1323メートから山頂2857メートルを目指すと、目の前に北アルプスの大パノラマが広がる、北アの入門コースのひとつと言われています。
このコースの攻略ポイント5つを、ルートとともに紹介します。
・常念岳ルートMAP
①駐車場の確保
事前に調べたところ、気になるのは駐車場の確保でした。
金曜夜、仕事を終え急いで帰宅します。20時に車に乗り込み、キーを捻り中央道へ。
一ノ沢ルートの登山口、ヒエ平登山口の駐車場は登山口から1 キロ程下に第一駐車場、さらに800メートル程下に第二駐車場があり、それぞれ30台程のスペースがあります。
第一駐車場から登山口までの路肩にも待避スペースがあり、シーズンには違法駐車も目立ちました。
高速を降り、真っ暗な林道を行くと、夜中12時頃、車は第一駐車場に滑り込みました。到着すると、8割ほど埋まっていましたが、第二駐車場はまだ空いていましたので、そんなに急がなくてもよかったように思います。
真っ暗な車内で、事前に計画を立てた地図を頭に思い浮かべます。
常念岳、一ノ沢ルートは山と高原地図によると、休憩を入れない時間だけでも、登り5時間30分、下り3時間と長めになっています。
今回はじめて登る山ということもあり、焦らないよう、安全のため早めに出発することにして、そっと目を閉じました。
早起きするはずが、結局4時に起床し、出発できたのは時計の針が5時を回ろうとしている頃。
ヒエ平登山口まで約一キロの、「一ノ沢林道」という舗装路をウォーミングアップのつもりで歩く。
夏の日差しで熱くなる前のひんやりしたアスファルトに蝉の声が反射しています。
寝不足の身体の、筋肉の動きをひとつひとつ確認しながら、自転車のタイヤに空気を入れるように、無理やり酸素を送り込みながら歩きます。
登山口には、石垣の立派作りの休憩所とトレイがあり、周辺は準備運動する人や、ザックの中から何かを取り出そうとゴソゴソしている人、朝食中の人などで賑わっています。
登山届を提出しようとすると、かなり年配と見受けられる遭対協の方が、板張りの床ごギシギシ鳴らして出てきてくれました。
なんと80歳になるそうで、この道50年!
毎朝3時に起きて、登山口で皆のお世話をしてくださっているそうです。
休憩所のテーブルには、新鮮なきゅうり、リンゴ、すもも、それにお茶まで用意されていて、このおじさまが自宅から持ってきてくださっているそうです。
皿に盛られた色とりどりの夏の恵み。
有難いですね。
「これ持ってきな」と大きなリンゴまで頂き、行動中に食べたら美味しいだろうなと想してながらザックを担ぎます。
常念岳、いざゆかん!
常念岳はキレイなピラミッド形の大きな山容です。つまりアップダウンは少なく、登りはずっと登り続けることになります。
こういったパターンのルートは、下山時の筋肉疲労が予想できます。
一ノ沢ルートの特徴として、常念乗越までは沢沿いの樹林帯を進むので、序盤は景色は楽しめませんが、沢沿いを涼しく登ることができます。
枝に巻かれたピンクのテープを見失わないように。
※曇りのためシャッタースピードが遅く、写真がぶれています。すみません。
景色が見られないぶん、普段なら通り過ぎるようなポイントを見る楽しみもあります。
山の神
古池
ゴーゴーという沢の音を左に聞きながら、爪先上がりの道は傾斜を増してきます。
霞に混じって草が薫る登山道は、その空気を胸いっぱいに吸い込むと、身体も心も浄化されるようです。
②あったらいいなアイテム
一の沢ルートはその名の通り、沢沿いを歩くルートです。
苔むした岩や、ぬかるんだ泥の箇所もあり、所々水の中を歩きます。晴れていれば、水位は深くてもせいぜい足首程度で、ゴアテックスの登山靴なら問題ありませんが、水はねでパンツの裾が汚れてしまいます。
ゲイター(スパッツ)を持ってくればよかった。
こんなときはソフトシェル素材のゲイターが通気性とストレッチ性があって快適ですね。
私のおすすめはアウトドアリサーチのエンデュランスゲイター。
残雪期やこういった沢沿いのルートや、藪コギにもってこいのライトな使い心地です。
帰ったらパンツの裾をツマミ洗いすれば良いか、と気持ちを切り替えます。
もし急な雨で、沢の水位が上がっても3時間程で下がってくるそうです。
途中、何度か一ノ沢の支流にかかった丸太橋を渡ります。落ちないように慎重に。
いつも通り、トレーニングを兼ねてた山行なので、無駄に重たいザックのせいで、橋の上でふらつきます。
沢沿いのルートでも行動中はやっぱり暑く、吹き出した汗が顎から落ち、吐く息で飛ばされていきます。
ときどき、冷たい沢の水を両手ですくい、「っぱ~、あ~」と声が漏らして顔を洗う。
そして一ノ沢の水は飲み放題。(自己責任でお願いします)
むかし丹沢の水でお腹を下したことを思いだしましたが、ここは大丈夫みたいです。
大滝(王滝)ベンチ
歩みを止めると、涼しい沢の風が頬を撫でます。
背中を反らせ、ザックとの隙間の熱気を風がさらう。
王滝ベンチの先が「王滝」で立派な道標があります。
足元のクマザサが目立つようになり、河原が広くなります。
烏帽子沢を越えたあたりで、岩の間から何がチョロチョロと出入りしています。
!
オコジョだぁ~♪
人なつこくて、足元をぴょんぴょん動き回って逃げる気配がありません。
昔飼っていたフェレットを思い出します。
「コジョ之丞」と名付け、しばらく観察しながら話しかけていたのですが、名前が気に入らなかったのか、どこかへ行ってしまったので、ここで小休止します。
川面を吹く風が、身体の熱気をさらっていきます。
昔むかしのマタギは、オコジョを山の神の使いと信じていたようです。
オコジョを見たら怪我をするからその日は下山する。
オコジョを見たらその日の猟は何も取れない。
といったように、不吉の象徴だったようです。
そのくらい遭遇する確率が低く珍しいということですね。
③休憩の取り方
さぁ、まだまだ先は長いので出発します。
ここで大失敗!
休憩のせいで、ヘモグロビンまで休憩してしまったようで、急激に脚がダルくなってしまいました。
休憩はしないで、ゆっくりペースで登り続けた方が良いですね。
心拍も登山仕様になっていたのに、休憩してしまうと、またウォーミングアップからやり直しになってしまいます。
水分補給や行動食は座らず立ったままが良いですね。
ベテランの方は知っている事でしょうが、私はまだまだ初心者。
基本的なことですが、再確認できました。
この後も、「これでもか」というくらい登り続けます。
それでも気持ちの良い沢沿いの登山道に心も弾む。
笠原沢出合
笠原沢出合を過ぎると、いくつか沢を渡るポイントをクリアします。
このあたりから高山植物が増えてきます。
胸突八丁
なんだか昔のプロレス技みたいな名前で嫌な予感がします。
嫌な予感が的中し、長い階段で標高を稼ぎます。
振り返ると、登ってきた道が続き、後続者がとても小さい。
頑張りどころです。
最終水場
階段地獄をなんとかクリアし、正面に沢が見えたところが最終水場です。
本当に水が美味しい。
わかりやすい水場はここ以外ありませんので、ナルゲンボトルにも補給します。
この先はさらに傾斜が増してきます。
所々ベンチが設置されています。
座りたいところですが、かえってバテるので、ここは我慢。
看板の「あと〇〇メートル」に励まされます。
「まだかな、本当かな」と看板相手に疑心暗鬼になるのも山現象ですね。
第3ベンチを過ぎた頃、左頭上に、常念乗越から常念岳に続く道が見えてきます。
常念小屋のさらに遠景には槍ヶ岳の穂先がちょこんと顔を出しています。
④滑落注意!
登山道が狭く、谷側は草で覆われているので踏み抜くと落ちてしまうので注意が必用です。
下山時に疲れが溜まって体幹がぶれ出したり、集中力が切れていると危ないかもしれないですね。
薮が深いところで、うっかり落ちて起き上がれないような怪我をしたら誰も見つけてくれません。谷では携帯の電波も届きにくいでしょう。
人が多いルートですが、笛と救助が来るまで過ごせる食料、ツェルトは持参すると良いと思います。
昨年はここから落ちた人がいたそうですが、他の登山者が気づいて、トレッキングポールを伸ばして助けてくれたそうです。
私もツェルトは常に持ち歩いています。
将来、実際にビバークで使うことになるとはこの時は思いもしませんでした。
定番のライペン。
気が変わればこのままツェルト泊することもできるのでスーパーライトツェルト2という大きいタイプのものです。
途中、新しい丸太の道が整備されていました。
シーズン前に遭対協とガイド協会の皆さん約20名で1日で登山道すべてを整備したそうです。
私達が安全に登山できるのも、こういった方達のおかげなんですね。本当に有難いことですね。
ペースを落としても息が上がり、いともの「小屋はまだか?病」が末期になってきました。
急に視界が開けたと思ったら、ようやく乗越に到着です。
時折ガスが晴れそうになりますが、穂高連山は見えませんでした。
槍ヶ岳が見えたら嬉しいなと思いましたが想いは届かず。
麓の気温が高いのでしょうね。
ガスがどんどん上がってきます。
一番向こうの雲の中に穂高の山々があるはずなんですが。
常念乗越
常念小屋
赤い屋根と青々とした山の連なり。
高い空には水彩の平筆で掃いたような曇。
その向こうに槍穂高。
色彩が目に飛び込んできます。
常念小屋でコーラ(糖分)を購入して、外のベンチで休憩します。
常念小屋は、90年の歴史がある由緒ある山小屋です。
支配人の山崎さんは、遭対協の常駐隊員でもあるので、登山に関する相談はもちろん、高山植物にとても詳しいです。
トイレはテン場の脇に仮設トイレが三基ありました。
チップは100円。
コーラで糖分を補給したら、いよいよピークアタックです。
山頂へ向け、いざゆかん!
ここから山頂はコースタイムでは1時間の予定の稜線歩きになります。
ゴロゴロとした岩のルートに、所々砂が混じります。
勾配も急になってきます。
山頂に向かって左側がハイマツ帯ですので、これだけガスっていたら雷鳥に会えるかなと、探しながら登りましたが遭遇できませんでした。
それにしてもキツイ!
息があがります。
太腿の筋肉も少しパンプしてきました。
頂上かと思っていたところに来ると、単なる岩場の塊でした。
その先に本当の頂上がみえました。
残念ながら、ここまでは頂上は見えません。
ニセ常念にため息を付いて、歩みを続けます。
呼吸を整えながら、心肺が保てるギリギリのペースで進みます。
心臓の音が耳に響きます。
ガレ場で歩きにくい。
登山客も多いのでタイミングを見て、先に抜かせてもらいます。
ハンガーノック一歩手前で、心も折れそうになりますが、ただ頑張るしかありません。
こういう時、頑張る理由って確実なものは見つかりませんね。
景色?
風景?
達成感?
よくわかりませんが、進むしかありません。
自己欺瞞と体力との戦いです。
数歩登っては息を整え、の繰り返しになってきました。
それでも回りを見渡すと、
力強い稜線。
谷から吹き上げるガス。
地面を走る雲の影。
素晴らしい景観に元気をもらいます。
見えているピークはなかなか近づいてきません。
ここで必殺のドーピング。
気の抜けたコーラと大福でエネルギーを補給します。
厳冬期は練乳チューブもオススメですよ。
気のせいか、少し元気になり、一歩一歩力強くなってきました。
岩につけられた〇印を確認しながら登ります。
結局1時間30分かかって11時に登頂です。
⑤コースタイムの落とし穴
結果トータルではコースタイムより早く登頂できたわけですが、常念小屋~山頂は大幅に時間がかかってしまいました。
勾配もかなりきついので、この区間はゆっくり登る必要があります。
日帰りの場合、交通機関の時間制限もありますし、疲労でのペースダウンを加味した計画が必要ですね。
山と高原地図のタイムは、登山ブームに合わせ、年配の方向けに長くしているようですが、個人差や、登山道と自分の相性や、天候、疲労具合や装備の重さで変わってきますので、要注意です。
ここでガスが晴れるのを待ちながら、カップラーメンの儀を執り行います。
ストーブは定番のイワタニプリムスのP-153。
苦楽を共にしてきた長年の相棒です。
しばらく待ちましたが、ガスが垂れこめてきます。
こんな日は夕方にならないとガスは晴れないでしょうね。
12時下山開始です。
ガレガレの道。視界も悪く、迷いそうになりますが、茶色く変色していますので、慎重にルートを見つけながら下山します。
逆に登山道ではない岩は苔で暗い灰色に変色しているので、目安になりますね。
常念小屋に戻り、トイレを済ませ再出発です。
長い長い道のりの始まりです。
でも登りに比べ、周りを見る余裕もあるので、
岩を滴る水に癒されたり、
お花に元気づけられながら、
ウサギギグかな?
かなり早いペースアップして、
16時ヒエ平登山口まで戻ってきました。
ポールを持った腕が筋肉痛に!
もっと軽いポールが欲しいなぁ。。。
登山口では、なにやらざわざわしています。
聞くと、タクシーで来た方が、帰りのタクシーを呼ぼうとしたらしいのですが、
携帯が圏外とのこと。
タクシー会社の看板にも「ここは圏外です。林道を少し下ってからお電話ください」と書かれていました。
たしかに駐車場も圏外でしたし、登山道もところどころ圏外になっていました。
要注意ですね。
・まとめ
常念岳 一の沢ルートのポイントは
と、慣れている人にとっては当たり前のようなことですが、安全登山の基本的なことを再確認できました。
北アルプス入門の山として紹介されていますが、観光の山ではありませんので、何かあっても自分で対処できるだけの知識と装備が必用ですね。
登っている最中よりも、思い返すと楽しかった、というタイプの山でした。