憧れのジャンダルムの登山ルートを写真付で詳しく紹介します。
・ジャンダルム登山ルート
2017年8月13日(日)
上高地から涸沢までのアプローチ
涸沢から奥穂高
奥穂高からジャンダルムへ
いよいよ、ついに!こっそり企んでいたジャンダルムへ!
初めて見たのは上高地の河童橋から。
昨年登った北穂からは、さらに近く見え、その心胆寒からしめる姿。
絶対登りたいと思ってきました。
ジャンダルムという名前の響きも人を寄せ付けない厳かな雰囲気があり、数日前から緊張していました。
ジャンダルムをやると決めてから、岩峰歩きの練習を繰り返してきましたが、実際に自分の目で見てみないことにはやれるかどうかわかりません。
「ダメなら撤退」と何度も自分に言い聞かせます。
リミッターを振り切ってしまったら、実力以上の山に登ってしまいかねないから。
怖がる気持ちは事故のサイン。でもそれを超えなければいつまでたっても登れない。
自己欺瞞との戦いを続けながら、集中力を高めます。
奥穂山頂からジャンダルムへの稜線は今まで見たこともないようなナイフリッジになっていて、奥穂に登ってきた人達も「凄いねぇ」、「行ったら死んじゃうな」と言いながら眺めています。
「いや、これから私行くんですけど・・・」(汗)
ジ、ジャンダルム、・・・い、いざゆかん!
とぅ!
馬の背
スタートからすぐに馬の背です。
その高度感からまるで5000メートル級の山なんじゃないかと、雲の上を歩いている感覚です。
天気も良く、見晴らしがあるぶん、怖さも出てきます。
思ったよりは幅があります。
足の置き場は自然と「ここしかない!」となるので、迷うことは少ないです。
それでも落ちたら最低でも重症以上です(怖)
途中足の横幅分もないステップをトラバースする所があります。手足が短いのでかなり緊張しました。
緊張でものすごく喉が乾きます。
実は岐阜側に20mほどのトラバースコースがあるらしいのですが、奥穂側からは取付きが見えなかったし、せっかくここを歩きに来たのでこのまま進みます。
すると、身のこなし軽い、かなり慣れているお二人が寝そべって写真を撮っています。
凄い。
記念にパチリ。
ナイフリッジの下り
馬の背は一般的には西穂側から登った方が楽と言われています。
今回は逆なので下り。
三点確保を意識しながら、バックステップで一歩一歩降ります。
時間がかかりますが、焦らず。
掴んだホールドがグラグラの箇所もあるので、確認しながら進みます。
これがバコッと外れてしまったらTHE ENDです。
前からも後ろからも誰も来ませんでしたので、変なプレッシャーはありませんが、常に緊張です。
あそこに行くんだ!
このようにお尻を着いて降りると安全な箇所もあるので、ザックは一番上になるようにショルダーストラップを締めます。
今回使用したアタックザックはモンベルのバランスライト20
他にもっと軽量でコンパクトなものもあるのですが、岩場の通過がありますし、入れる装備もそこそこ多いので耐久性のあるこのモデルにしました。
バランスライトは背中のパッドを取り外すことができるので、それなりにコンパクトに折り畳めます。
パッドは取り外したら、そのままビバーク用のマット(座る用)にもなります。
一本締めのストラップも山屋っぽくてかっこいい♪
ガレ場の下降
ナイフリッジを過ぎるとガレ場の下降です。
いきなり浮石!
また浮石!
なんでこんなに浮石がっ!
すると上から降りてくるパートナの「ヤバイ!」の声が。
見ると浮石を踏んで、岩が足の下でずれています。
すぐさま押し込んであげます。
ふぅ~。冷汗が出ます。
足の置き場を探しながら慎重に。
浮石の塊でできたような崖。
ホールドもグラつくので確認しながら。
ここで「ラク」してしまって下に人がいたら、大変です。
鞍部に着いても落石の危険性があるので、ロバの耳側に寄って水分補給です。
緊張で本当に喉が渇く。
ロバの耳
ロバの耳は逆層スラブのクサリ場を右斜め上に登っていきます。
落石発生!!
すると先ほど降りてきたガレ場の崖から「ラーク!」の声とともに、ガラガラガラ、パカンパカーン!!と落石が発生!
見ると上の男性が落としてしまったようで、下には登山者が!
しかもヘルメットも被っていません。
下の登山者は走って崖を下り逃げます。
150kgはあるだろう大きさの岩が大小様々な岩を巻き込み、砕き、崩しながら男性に迫ります。
私たちも「ラーク!逃げろ~!」と叫びながら、壁に張り付いたまま、全身の力が抜けます。
瞬間的に「あぁ、あの人死んじゃう」と思いました。
男性はなんとか壁の窪みに張り付き、岩を避けることができました。
力の抜けた身体に、なんとか気合を注入し直します。
ドキドキが止まらない。
手足の短さで、ホールド探しに苦戦しながら、ムーブを意識します。
ボルダリングの動きが役立ちます。
ステップも場所によっては爪先で乗り込みます。
底の固い靴で良かったと思いました。
もっと岩登り向けのシャンクの固い靴もありますが、爪先の「クライミングゾーン」と言われるところが狭く、靴底のクッション性もありませんので、上高地からのアプローチの長さを考えると、こちらの方が快適ですし、私には十分なスペックです。
その後高度感のある絶壁をトラバースします。
先ほどの落石で、ちょっとした岩の音、人の声にも敏感になってしまいます。
このようなサイドのホールドは力が逃げやすいので緊張します。
足をしっかりきめて。
鞍部からジャンダルム
一枚岩のクサリを通過して、岩屑の道を進むとついにジャンダルムの取付きです。
ここで小休止。
ずっと前の方を進んでいたご家族と笑顔で挨拶。
ちょっとホッとします。
お聞きすると、パパさん、ママさん、お兄ちゃん、みんなクライマーのGABOさんファミリー。
ここからは一緒に登って頂くお願いをしたら、快く「一緒に行きましょう!」と言っていただけました。
北壁には残置スリングが。
でも直登する勇気はないので、狭いトラバースを西穂側に周り込みます。
ここからはどこを登っても山頂ですが○印を探しながら。
集中!
とにかく浮石を踏まないように慎重に。
「もうちょい!ガンバ!」パパさんの応援が上から勇気付けてくれます。
ついに・・・・。
ジャンダルム山頂
登頂です。
はぁ~、緊張した~。
「生きてるよね?」
なんて見晴らしがいいんだろう。
下界は全て雲の下。
進んできた稜線。
その向こうに奥穂高から北穂高、槍ヶ岳。
奥穂の向こうには吊尾根から前穂高。
反対は独標から西穂。そして焼岳、笠ヶ岳。
北アルプスの宝石箱や~!
贅沢!
正式にはジャンダルムは山には数えられないのですが、標高は槍ヶ岳に次ぐ高さです。
まるで実寸代の地図を見ているようです。
山頂にはずっと会いたかった天使が。
本当に緊張した~。
今まで登ったどの山よりも。
そして、もう一つ違うのは、戻るのも怖いということ。
登頂の喜びは50%です。
無事に帰らなければ。
・ジャンダルムの下山ルート
帰りもGABOさんファミリーとご一緒させていただきます。
来た道を逆に戻りますが、そこが本当のゴールです。
ジャンダルムから取付の鞍部へ
みんなの力量(主にぽんこつな私のペース)にあわせたルートを探すお兄ちゃん。
全く怖がらず自ら実験台となり危険ヶ所を後続に伝えるママさん。
終始冗談で雰囲気を明るくして、要所要所で私にホールドを教えてくれたり、先頭に指令を出すパパさん。
チームワークが凄い!
ロバの耳
ここは思い切って両手でクサリを掴み、腰を落としてベタ足で。
ガレ場の崖
落石の巣。一番慎重になった箇所かもしれません。
ナイフリッジ~馬の背
ガスの向こうに馬の背が。
登りの方が幾分か安心です。
「↑ウマノセ」緊張します。
爪先で乗り込みます。
奥穂が見えた。
前向きに手を着いたり、バックステップになったり、自分に一番合った方法で。
馬の背をクリア!
到着~!
一緒に登って頂いたおかげで、来たときより楽しく進むことができました。
本当ありがとうございます、GABOさんファミリー!
今度クライミング教えてくださいm(_ _)m
みんなでジャンダルムポーズ(笑)
無事に奥穂に戻ってきてここでやっと100%の達成感が!
みんなでハイタッチ。
こんなに嬉しい山行になるとは思いませんでした。
花に虫がとまっています。
はぁ、生きてるなぁ(笑)
一年のほとんどを雪に閉ざされるこの山の、ほんの一時の短い夏だけわざわざ咲く花に、密を求めてはるばるやってくる虫、そして動物たち。
奥穂に戻ってきた私たちも、花と同じ。咲くばかり。
明日の在りや無しや、今は知るものか。
みんなジャンダルムに登ったんだ!
これまで登ったどの山よりも結束感、団結感があります。
自己紹介してない人同士もお互い顔を覚えていて、お互いに喜びを分かち合います。
花と一緒にそこに突っ立っていると、風が心地よい。
穂高岳山荘へ
油断は禁物です。
・ジャンダルム 参考コースタイム
奥穂岳出発7:10~ジャンダルム到着9:00 1時間50分
ジャンダルム出発9:20~奥穂高岳到着11:10 1時間50分
コースタイムはあくまで参考です。
他の山と同じタイムでは登れませんので、余裕も持った計画が必要です。
・ジャンダルム登山のポイント
浮石に注意
とにかく浮石だらけでした。自分も落とさない、他人からの落石にも細心の注意が必要です。
お尻を付いて降りる場面も多く、アタックザックが引っかからないよう、ショルダーストラップは短くしました。
体力と気合
こんなことを言うと「技術や経験は?」と語弊がありますが、基本は体力と気合です。
涸沢から奥穂経由でジャンダルムのピストンだと、休憩を入れて行動時間は10時間になりました。
ルートは全てが核心です。一時も気が抜けません。安心できる鞍部はたったの2箇所。最悪の場合、ビバークするのもつらそうな印象でした。
難易度ばかりが目立つルートですが、集中して歩き続けられる体力は必要ですね。
前持ってランニングや筋トレをしておいて良かったと思いました。
難易度は剱岳もほぼ同じ。鎖の有無で、感じ方が分かれると思います。
奥穂高岳から涸沢ヒュッテ
穂高岳山荘で水を補給します。
1リットル200円。
500ミリリットル100円。
私のナルゲンボトルは丁度1リットルなので200円入れます。
ナルゲンボトルは容量のメモリが付いているので、メスティンで炊飯するときにも便利ですし、広口のボトルは行動食を入れることもできます。
なんだかんだ広口のシンプルなボトルが1番使いやすいですね。
ペットボトルやプラティバスは外圧で破裂してしまうと悲惨なので、ナルゲンボトルがおすすめです。
今シーズンは脱水で行動不能になった例もあったようですので要注意です。
涸沢の常駐隊基地でもアミノバイタルの粉末を配布していました。
ザイテングラート
やはり疲労が蓄積しているのか、膝の上の筋肉、通称「ブレーキ筋」がパンプしかかっています。
ザイテンで事故が多い理由の一つは疲労と油断なのではないかなと思いました。
疲労で滑落。
油断してルートを間違える。
浮石を踏んで滑落。
落石に巻き込まれる。
色々な図式が想像できます。
慎重に。
歩く速度で流れ去る、歩幅通りの風景。
装備
ジャンダルムに登る装備は、基本的な登山装備と変わりません。
追加であれこれ持つよりも軽量化した方が、安全だと思いました。
もちろん、ツェルトや救急セット、行動食は減らしてはいけません。
特に、緊張で喉が渇くので水分はいつもよりかなり多く必要になりました。
ヘルメットは絶対に必要です。
しつこいようですが、装備の力で登れるという山ではなく、経験・体力・気合が必要だなと強く感じました。
・まとめ
約10時間程の長い山行だったけど、振り返ればあっという間でした。
時には息を飲み、時には感嘆の声を上げ、攀じ登ることだけを考えていました。
人との出会いに助けられたし、自分の課題がわかった良い経験となりました。
テントで夕食を終えたものの、興奮からか目が冴えて、なかなか寝付けません。
涸沢のテントの灯りも消えた頃、そっとシュラフを抜け出し外に出てみます。
濃紺の夜空に、漆黒の穂高連峰が浮かび上がり、山から吹き降ろすガスは湿って寒く、何故か懐かしい匂いがしました。
「登れて良かった。」というパートナーの一言が印象的でした。
刺激的なジャンダルム・・・癖になります!
下山後、その足で一路富山へ。
剱をやるはずが・・・