宝剣山荘 年末年始の小屋泊
12/29
昨年に引き続き、年末年始に宝剣山荘が営業します。
昨年は日帰りで行ったので、勿体無い思いをしました。
今年は絶対泊まる!と決意(大袈裟)して一年。
予約をして、この冬休みをずっと楽しみにしてきました。
朝6時前、東京を出発します。順調に流れる中央道をノンストップで9時過ぎに菅の台バスセンターに滑り込みます。
駐車場は余裕がありました。
今日の天気は・・・
この時点からさらに悪化する予報なので、覚悟が必要です!
駐車場と年間パスポート
バスのダイヤは、この時期は1時間に1本のみ。
ゆっくり支度をして、切れてしまった年間パスポートを申し込みます。
申し込みと支払いはバスセンターの窓口で済ませます。
バスは、途中でタイヤチェーンを装着した便に乗り換えます。
車内は、まだ観光客は少なく、ほとんどがフルサイズ一眼を持った登山者でした。
みんな楽しそう。
その後、ロープウェーのしらび平駅で顔写真を撮り、年パスのカードを受け取ります。
カードが出来上がる時間は、いつもは下山時なのですが、今日は窓口のお兄さんが頑張ってくださり、ロープウェー出発時間にギリギリで完成しました!
ロープウェーも1時間に1本の間隔で運転しています。
始発から3本目の11時台の便で千畳敷へ。
冬期専用の入口ができていました。
登山届けを記入すると、補導員の優しいオジサマに装備のチェックをしてもらいます。
ポールで登らないこと。
アイゼンは12本爪。
他、登山届けの裏のチェック表を見てもらいます。
小屋泊なのに何故か全てにチェックが入っているのを見て、「縦走?」と聞かれてしまいました。
いや・・・・「小屋泊で、これ実はほとんどがお菓子と、寒かったら嫌なので厳冬期用のシュラフが~・・・」と説明すると、困惑しながら苦笑いのオジサマ(汗)
いきなり恥をかいたり汗をかいたり、丁度良いウォーミングアップになりました(苦笑)
アイゼンを装着し、ヘルメットを被ったら、カマボコ型の出入口から外に出ます。
うわ~、真っ白。
雪面と空の境界が無く、白の濃淡だけが風に流されていきます。
サギダルの天辺の岩がかろうじて灰色に浮かびます。
麓から見上げたときは青空だったのに。
4人程、「ダメだ、見えない」と言って途中撤退してきました。
目を細めて見上げると、乗越の影が見えています。
よし、大丈夫!
サギダルの方にルートを取らないよう、念のためGPSを起動しておきます。
宝剣山荘、いざゆかん!
八丁坂から乗越浄土
積雪期は千畳敷を右に迂回して八丁坂に取付きます。
千畳敷まではロープウェイがありますので、気軽に考えてしまう方も多く見かけますが、ここは雪崩の巣。
気を引き締めます。
雪はモフモフのパウダー。
こりゃアイゼンはいらなかったかな?
でも乗越手前がアイスになっていたら・・・・と昨年のトラウマがありますので、このまま進みます。
日帰りの登山者は始発で登っているからか、この時間はほとんど人がいません。
それでもトレースはしっかりあります。
深くても腰上程度。
ピッケルは55cmです。
前半はサギダル尾根からの雪崩に注意しながら登ります。
頻繁に上を見上げながら、一歩一歩。
高度を上げるにつれて、風が強くなってきます。
ひゅうっと風が来ると顔に雪が突き刺さります。
瞬きをする度に上下のまつげが凍ってくっついてしまいます。
いつもならこのペースだと汗をかいてしまうのですが、今日はかなり気温が低いのか、寒いくらいです。
ピッケルもキンキンに冷えて、手が凍るのも早いです。
一歩一歩登る速度で、ガスの向こうに見慣れた岩が姿を現します。
久しぶりの再会、オットセイ岩。
今日も変わらずじっと宝剣を見上げています。
急勾配になってくると、トレースの一段一段と、自分の歩幅が合わず、「よっこらせっ」と登る頻度が多くなり、息が上がります。
直登はふくらはぎにも効きます。
休ませる足も前足を左右を入れ替えながら。
例年ガチガチに凍っている乗越手前の斜面も今日はややカリカリ程度なので、管理小屋の方に直登します。
一歩一歩が重い。
もうちょい。
出発から40分で乗越浄土です。
飛び出した瞬間、強風の洗礼が!
一瞬で汗や身体から出た蒸気が凍ります。
髪の毛も、
スリングも
全部凍ってしまいます。
一番近い、そこにあるはずの宝剣岳ですら真っ白で見えません。
ガスの中に浮かぶ象徴的な青い屋根。
宝剣山荘です。
スタッフのみなさんは元気かな?
アイゼンを外したら、建物左側の入口を潜って入ります。
頭をぶつけないように。
宝剣山荘
中に入ると、お客さんたちはストーブの周りで談笑しています。
小屋は今日開けたばかりで、まだ温まっていませんが、お客さんの笑い声、石油ストーブの匂い、軋む床の音、人間の営みがそこにあることだけで暖かく感じます。
スタッフのみなさんもお元気そう。
今日は初めての小屋泊です。
勝手がわからず少し緊張していましたが、スタッフさんも他のお客さんも、みなさん親切で、すぐに緊張が溶けました。
しばらくストーブの傍でくつろぎます。
家から作ってきたお砂糖たっぷりの紅茶と、コンビニで買った大量の昼食とお菓子(笑)
山専ボトルはまだまだ熱々を保っています。
お客さんは写真を目的に登ってきた方が多く、みなさん顔見知りのようです。
人見知りの私でも、とても居心地のよい空間です。
スタッフさんたちは、小屋開けの作業と、お客さんの対応でフルスロットルです。
それでも笑顔で、チームワーク。なんだか素敵な職場だなと思いました。
怪力のお兄さんが分厚いサブロクのコンパネを3枚まとめて運んでいます!
入口の床に並べ、ベンチを配置しました。
お客さんが小屋の中でアイゼンを装着できるようにしてくださいました。
トイレは意外と暖かくて安心しました。
これはありがたいです。
トイレの奥では発電機が絶賛発電中です。
このエンジンの音、それに焼けるオイルの匂いでさえ温かさを感じるので不思議です。
建築物としての魅力
今日泊まる部屋は二階、5番の部屋。
二階の内部を見るのは始めてなのですが、スケルトンの柱や梁までデザインのように見せる(見える?)のが格好良いです。
山岳建築の面白さですね。
南北に長く、山がたくさんある日本列島の建築様式は、とても多様で見ているだけで楽しいものですが、とくに山小屋はわくわくします。
私が山小屋に建築物として魅力を感じる理由の一つに、山と人の営みが想像できることがあります。
都市から離れた山間部や山小屋の建築物は保全や整備も後回しにされがちで、切り捨てられやすいでしょう。
例の事業仕分けでは山小屋のトイレ整備の補助金が廃止されそうになったこともあります。
でも、私は、山小屋のような生活圏の端っこの方にこそ活力があると思っています。
山小屋は、一私企業の営利団体という括りでは語れません。
「環境保全」と「登山者の安全」という観点は大きく、その公共性は誰が見ても明らかです。
山小屋がずっとずっと継承されるよう、私たち登山者ができることをしなければと思います。
さて、お部屋は象徴的な大屋根の傾斜を利用した作りで、小さな可愛い窓があります。
この窓の高さより、さらに上まで雪で埋まっているようです!
とても綺麗な清潔感のあるお部屋です。
山小屋の魅力
ザックを置いたら、また1階へ。
時々外の様子を見に出ると・・・
やっぱり真っ白。
真横からびゅうと風が吹いて、雪を飛ばし冷たい煙をあげます。
360°白い大きな旗がなびいているようです。
立っていても身体が倒されそうになるほど。
もし晴れたら真っ赤に染まる宝剣岳が見られるかもしれないし、星空も見られたらいいなぁと、一縷の望みにかけて、オーバーパンツも履いたまま過ごします。
夏だったら、リラックスした服に着替えて過ごせるのも小屋泊の魅力かもしれませんね。
冬は夏よりさらに水も貴重、お風呂も無いし、歯磨き粉も石鹸も使えない。
この時期は携帯の電波もありません。
(あ、乗越のあたりと、天狗荘のあたりは電波があったりなかったりでした。)
人によっては不便に感じるかもしれませんが、山では人の暮らしの原点を思い出させてくれます。
家ではスマホを見ている時間が長くても、宝剣山荘では本棚の本を読んだり、他のお客さんとの会話を楽しんだり、こういう機会ではないと味わえない時間が過ごせます。
小屋のスタッフさんや、他のお客さんの話を聞いていると、インターネットでは知ることのできない貴重なお話がたくさん聞けるので、とても勉強にもなります。
ゆったり流れる時間を過ごすなんて下界ではなかなか無いことです。
また、外の様子を見て自然の厳しさや美しさを感じて、山にお邪魔させてもらっているという気持ちにもなれます。
そうすると環境保護の大切さもわかります。
テン泊でも同じですが、日帰りでは味わえない山を感じることも小屋泊の魅力だなと思いました。
夕暮れのグラデーション、酔うほどの星空、雲散霧消の朝。
刻々と変化する「今日」を過ごせる贅沢は、ここでしか味わえません。
下界では人間関係の鬱陶しさが嫌で、山では誰にも会いたくないな、と思って登っても、小屋に着くと、やっぱり人の温かみを感じて、人は一人では生きていけないんだなという気持ちにもなります。
夕食
6:30
夕食の時間です。
席はスタッフさんが教えてくれます。
団体さんを同じテーブルに、単独の方や少人数のパーティーを同じテーブルに。
食事の時間も楽しいコミュニケーションになるように配慮してくれています。
メニューは、念願の揚げ物♪
テント泊では、油を使う揚げ物なんてできないので、とても豪華です。
いつも『これは揚げ物だ!』と自己欺瞞と闘いながら食べているビッグカツや、どん兵衛のかき揚げ、じゃがりこ。お恥ずかしい(汗)
野菜もシャキシャキ新鮮です。
何よりも、この標高でこんなに美味しくお米が炊けるなんて!
水の都合上紙皿ですが、そんなの全然気になりません。
品数が多く、とても美味しい!
宝剣山荘は揚げ物の日が多いのも特徴だそうです。
また、支配人さん特性の煮魚が出る日もあるそうですので、食べられた方はラッキーですね。
食後は消灯時間(通常は8:30らしい)までリラックスタイムです。
星でも出てたらラッキーだなぁと、外に出て見ます。
変わらず爆風で、飛ばされた雪の渦が巻いています。
ただただ灰色の広い平面が際限なく広がっています。
小屋泊の寝具と服装
消灯時間になりましたので、お部屋に移動します。
布団は、ふかふかの敷き布団、毛布、掛布団。
念のため持参した厳冬期用のシュラフを間に入れます。
服装は、ダウンパンツ、フリース、ダウンジャケット、靴下on像足。
そして胸元にぶら下げたハクキンカイロ。
シュラフに潜り込むと・・・
暑い。
汗ばんできた・・・。
そりゃそうですね。
テント泊の服&シュラフに布団でサンドイッチ。
そして屋根、壁、床ですもんね(苦笑)
結局ダウンジャケット、ダウンパンツは脱いで、像足も脱ぎました。
テントでは、ビニール袋に入れた靴、カメラのバッテリー、スマホ、水・・・それからそれから、とにかく凍っては困るものを全部シュラフの中に入れて寝るので、それはそれは窮屈で寝苦しいものです。
おまけに吐いた息がテントの内側で凍って霜になります。
風が吹くとテントが揺らされ、その霜が顔面に降り注ぎます。
それにく比べたら宝剣山荘は天国ですね。
小屋の外はかなり強風らしく、まるで地震のように小屋全体が揺れます。
雪山の環境の厳しさを改めて感じます。
明日はモルゲンロートが見れたら最高だな。
ごーごーと地響きのような風の音を聞きながら眠りにつくのでした。
ご来光
6:30スマホのアラームで起床。
日の出は6:55分頃。
南アルプスからご来光が昇るはずです。
切れ切れの眠りにまみれながら身支度を整え、外に出ます。
薄ら明るいですが、ヘッデンを点灯します。
ガスはほとんどありません。
風の息の間隔が長くなっています。
山は一晩芯まで冷やされ、世の中の全ての憂いを消し去っているようです。
中岳には既にカメラの三脚を据えた人の姿が見えます。
宝剣岳の中腹から構えている人も。
一瞬の閃光を記録するために、寒さに耐えて、じっと待っています。
まだか。
心地よい緊張感と期待感が寒さを和らげます。
徐々に、しかし確実に群青の空、灰色の雲が、オレンジのグラデーションになってきます。
遠く向こうの南アルプスの稜線と富士山がはっきりしてきます。
一瞬暗くなったように感じ、次の瞬間、光芒が水平に手を伸ばし、天に幾筋もの矢を放ちます。
一気に山全体を明るく照らし、風で吹き上げられた雪煙はキラキラと、まるでガラス片を撒き散らしたように、凍てついた空気の底とともに新しい一日がさらっていくのが見えます。
「うわぁ・・・」
「あぁ・・・」と、言葉になりません。
振り返ると中岳は橙に照らされていますが、朝焼けと言える程にはなりませんでした。
それでも、橙と冷たい浅葱色のコントラストが山の立体感を増していきます。
陽が富士山より高くなると、シュカブラの表情がはっきりしてきます。
ご来光を撮っていたカメラの人達も手持ち撮影に切り替え、散策しています。
白く輝く御嶽山
稜線を渦巻く雪煙
逆光の中にカッコイイお姉さんの姿が。
オジサマ達の中で紅一点。
どんな素敵な写真を取るのかな?
そろそろ朝食の時間なので、小屋に戻ります。
朝食
朝食も豪華。
鮭をメインに、普段の朝だったら食べることのない品数です。
同じテーブルの人同士、今日の予定を楽しく話し合います。
朝食を終えると、木曽駒頂上にアタックする人、下山する人、三ノ沢を目指す人、それぞれ出発していきます。
私は宝剣岳の行けるところまで行く予定です。
いらない装備を45lゴミ袋に入れデポしたら、装備を整えます。
爆風の宝剣岳
宝剣岳、いざゆかん!
数メートル登っただけで爆風が!
風を避けるものが何もないので身体が真横に持っていかれそうです。
風の息の合間で進みながら、直登するか、トラバースするか悩みます。
少しでも風の影響が少なそうなトラバースルートを進みます。
数歩進むと、ズブズブッっと足場が谷側に流れます。
新雪で安定しません。
しかもこの爆風・・・。
残念ですが、さすがに怖いのでここまで。
引き返し、尾根を直登すると・・・。
こちらも爆風で千畳敷側に飛ばされそうです。
やっぱり、冬の宝剣は厳しいですね。
もっと経験を積んで、いつか必ずリベンジしてやる!と心に誓い下山します。
雪洞掘りのコツ
宝剣山荘に戻ってきました。
まだまだ下山するのは勿体ないので、のんびりします。
雪に埋まった正面入り口からゴンゴンと音がします。
覗いてみると、支配人さんが重機並のパワーで除雪しています。
外に出て、邪魔をしないように見学します。
雪洞を掘るときのために、支配人さんに無理にお願いして、少しだけ穴掘りの体験をさせてもらいました。
怪我をしないように注意しながら、掘ってみます。
固い、そして重たい。
コツをお聞きすると、スコップは雪面に対して、垂直ではなくて、斜めに刺すとやりやすいそうです。
雪が新雪で固まらないときは、掘りだす地面にツェルト等を敷いて、その上に掻いた雪を溜めておき、ツェルトごと引っ張ってまとめて運び出すと早いそうです。
また、横穴はなかなか掘るのが大変なので、場所によっては竪穴を掘り、床を掘りごたつのようにベンチ状にしてツェルトを被るのもアリだそうです。
お忙しい中、教科書では教えてくれない雪洞堀りのコツを教えて頂いて、とても勉強になりました。
それにしても、凄いスピードの除雪作業!
支配人さんも、いつものお姉さんも休むことなく動き続けています。
よくよく考えれば、小屋脇の入り口があるのに、正月に合わせ、増えるであろう登山者のために、わざわざ正面も開けてくださるなんて、本当にありがたいですね。
そうこうしていると、長野県警山岳遭難救助隊の方と、遭対協の方が登ってきました。
以前お世話になったお礼を伝えられました。
名残惜しいですが、そろそろ下山の時間です。
八丁坂の下山
来た時よりなぜか重く大きくなっているザックを担ぎ、出発です。
八丁坂はいきなり急勾配から。
それでも凍っていないので、普通にズンズン進みます。
高度感があるので、バックステップで降りている方も多かったです。
自分のペース、自分の降り方が安心ですね。
滑落してもどこかで止まるでしょうけど、下の人を巻き込むのが怖いです。
また後ろからアイゼンを着けたままシリセードしてくる人もいたり、なかなかスリルがあります(汗)
どんどん近づいてくる千畳敷
雪に埋もれながら春を待つ樹々。
あっという間に千畳敷に。
まとめ
小屋泊なら、くつろぐ時間も多く、ダウンパンツにダウンジャケット、像足を持っていくと快適です。そのまま寝てしまえば十分暖かいので、シュラフまではいらなかったですね。
途中カメラの動作が不安定になりました。
ホワイトアウト気味だったり、吹雪いているとカメラのAFが定まらず、シャッターが切れないことがありました。手袋をしたまま設定を直すのは大変なので、フォーカスが合わなくてもシャッターが切れる設定にしておくと良いですね。
宝剣山荘は、何よりスタッフさんの心配りと、見えないところでの相当の苦労で営業されているんだなと思いました。
また、この時期のお客さんも、皆さん素敵な山屋さんばかりでした。
そういった人の温かさが魅力の小屋だと思います。
おいでなんしょ!宝剣山荘!