雪の銀世界が広がる中央アルプス 木曽駒ヶ岳に、山小屋泊で登ってきました。
光り輝く銀嶺に、風と雪が織りなす芸術、シュカブラやエビの尻尾。
富士山から登るご来光、ダイヤモンド富士など、この時期ならではの荘厳な風景とともに、雪山登山の注意点も紹介します。
・木曽駒ヶ岳の概要
木曽駒ケ岳は、長野県、伊那、駒ケ根、宮田村に位置する、中央アルプス(木曽山脈)の主峰、標高は2,956mです。
中央アルプスは急峻で厳しい山ですが、駒ケ岳ロープウェイを利用することで日帰りの登頂も可能で、とても人気の高い名峰です。
積雪期でも、ロープウェイが営業していますので、登山はもちろん、千畳敷カールでのスノーハイクを目当てに訪れる方が多く、一年を通して人気の高さが覗えます。
ロープウェイで楽に標高を稼げる反面、軽装備の方も目立ち、毎年事故も多く発生しています。
・アクセス
高速道路の駒ケ根I.Cを降りて数分のところに位置する、菅の台バスセンターが起点。
早朝5:00、併設されている広大な駐車場に車を滑り込ませる。
菅の台から先は、マイカー規制のため、バスに乗り換え、山岳道路を30分ほど。
夏と違って、大行列にはならないので、始発に乗ることができました。
冬季は始発も遅いので、余裕を持った計画で。
清流を渡り、森林の中を進むと、運が良ければカモシカに出会えます。
約30分で駒ヶ岳ロープウェイの乗り場、「しらび平」に到着します。
ロープウェイに乗り換え、約7分30秒の空中散歩を楽しんだら、標高2612m、日本一の標高に位置する駅、「千畳敷」に到着です。
千畳敷には、ホテルも併設されています。
・登山ルート
積雪期は、駅の建物に冬季用の出口が増設されています。
床にはコンパネが敷かれているので、屋根のあるところでアイゼンの着脱ができるのでありがたいですね。
一歩外へ出ると・・・
白銀と青空のコントラストが視界を埋めます。
氷点下の空気がすべてを包み、空気はきりっとして澄み渡っています。
目の前に立ちはだかる岩の壁、それを抉るお椀状の地形が、氷河圏谷「千畳敷カール」です。
夏は高山植物が咲き誇り、多くの観光客で賑わいを見せますが、積雪期は雪崩の巣と言われるほど危険なところです。
まずは前方の稜線の一番低くなったところ、「乗越浄土」まで直登です!
雪の木曽駒ヶ岳、いざゆかん!
通常、積雪期はサギダル尾根からカールを横切る雪崩を避け、カールを右から巻くように進むのですが、今年は雪が少なく、夏道を進みます。
朝一番の雪面は、まるで蓋を開けたばかりのアイスクリームのよう。
昨年も積雪量が少なかったですが、今年はさらに少ない印象です。
雪は一昨日の降雪が程よく締まっているので歩きやすい。
一歩一歩、キュッ、キュッ、と心地よいを立てる雪面。
汗をかくと凍ってしまうので、程よいペースでぐんぐん直登します。
天気が良いので、照り返しで暑く、汗ばんできます。
オットセイ岩に近づくと、風が集まり強風に。
風雪が身体を叩きます。
遠く向こうからやってくる風は、雪を巻き上げ、太陽の光をキラリキラリと反射させます。
風の動きが見えるのもこの季節ならではですね。
小さいころ、風に乗って飛ばされるシャボン玉を追いかけるのが楽しかったことを思い出しました。
太ももがパンプしてきました。それに加え、直登で常に爪先上がりなので、ふくらはぎもパンパン。息も上がる。呼吸を間違えると冷たい空気で肺が痛くなる。
オットセイ岩から先は、さらに傾斜が増します。たまに滑落してくる人がいるので前方を注意しながら。
夏道のロープが見えているので、所々トラバースしたり、見えている階段を使ったり、例年より楽に登れます。
振り返ると、南アルプスと富士山が応援してくれます。
スタートから45分で乗越浄土に到着しました。
標高は約2870m。
中央アルプスの大展望が開けます。
右手の伊那前
正面の中岳
そして左手は光り輝く宝剣岳がその穂先を青空に掲げています。
稜線上は雪は少ないですが、標識や岩には立派なエビの尻尾が育っています。
今日も、毎年恒例、宝剣山荘に宿泊。
冬季は、時期によって予約制で営業しています。
いつ来てもホッと落ち着く第二の我が家。
お世話になりま~す。
支配人さんのお美味しいごはんに、グラデーションに変化する暮色。魅力が一杯です。
一休みしたら、12:00。
日帰りの登山者がほとんど下山した頃、頂上にアタックします。
今日は天気の崩れもないので、午後の時間で、貸し切りの山頂を狙います。
冬季は、私の好きな巻き道は使えないので、中岳を越え、頂上山荘の建っているコルに一度降りてから、登り返します。
中岳までは、ほんの15分程度。
中岳の手前の斜面、このあたりが凍っていると、平坦に見える斜面でも、あれよあれよという間に滑り出し、黒川側への谷に滑落しやすいので注意が必要です。
今日は、コンディションも良く、歩きやすい。
日差しはありますが、風が吹いたり、太陽がガスで隠れると一気に体感温度が下がります。
このあたりで氷点下11~14℃くらいかな?
バラクラバの位置を調整して、吐息でサングラスが凍らないように。
今のところ一番曇りにくいバラクラバ&ネックゲイターはコレ↓
中岳
標高2925m
奇岩が他に並ぶ山頂を進むと、岩の向こうに、木曽駒ヶ岳が姿を現しました。胸も一層高鳴ります。
ここから一度頂上山荘まで降りていきます。
岩の雪のミックスしたルートは、アイゼンが引っ掛かりやすく、歩きにくい。
下から風も吹き上げるポイントです。
頂上山荘も雪に覆われ、夏は色とりどりのテントで賑わうテント場も、一面の雪に風が作り出した芸術「シュカブラ」ができています。
コルを通過し、最後の登りです。
疲労も溜まってきていますが、頑張りどころ。
ゆるく見える斜面ですが、息があがる。
宝剣山荘から55分で・・・
標高2956
木曽駒ヶ岳、登頂です。
貸し切りの山頂は、風は強いですが、気温もそれほど低くないので、しばらく写真を撮ったり、お茶を飲んで過ごします。
腕時計の温度計は氷点下15℃
誰もいない山頂。風の音と冷たい風に包まれますが、不思議と心が落ち着きます。
急にガスが上がってくることもあるので、遠くの空はつねに警戒しておきます。
同じ方向から風が吹ていると、気が付いたら鼻の頭や頬が凍傷になっていることがあるので、バラクラバを被り、シェルのフードも被ると安心です。
段々と日が傾き、銀嶺が黄金色に染まってきたころ、木曽谷からガスが上がってきました。
視界があるうちに宝剣山荘に戻ります。
中岳を越えると、ガスの向こうに私の大好きな景色が。
・冬季の小屋泊について
40分ほどで宝剣山荘に帰ってきました。
ストーブで身体を温めながら、ゆっくり流れる雪山の時間を過ごします。
時々写真を撮りに、小屋の周りにお散歩したり、手が凍っては温めに戻ったり、小屋泊ならではの贅沢な時間。
天狗岩の向こうに沈む夕日。
強風が巻き上げたガスと雪がキラキラ反射し、暮色を一層幻想的に飾ります。
自然の厳しさと美しさは比例するんですね。
宝剣山荘のボリュームたっぷりの夕食を堪能したら、食堂でのんびり過ごします。
ストーブの石油の匂い。
発電機の音。
昨年はお会いできなかった山岳写真家の皆さんと談笑したり。
小屋は幸せな匂いや音に満ちています。
消灯と同時に意識は夢の中に溶けていきました。
・ご来光
冬の木曽駒ヶ岳の見どころの一つ、南アルプスの向こう、富士山から昇るダイヤモンド富士。
日の出は6:59分。
タイムラプスを取ったので、是非YouTubeをご視聴ください。
一時間以上日の出を撮影していたので、手足の指が凍ってしまいました。
・いつも怖い、八丁坂の下山
宝剣岳を登る一条のガスとともに、胸の中を寂しい気持ちがすうっと通り抜けると下山の時間がやってきました。
こんなに良いお天気の日は、標高を下げるごとに汗が噴き出るはず。
レイヤリングで体温を調整できるように。
グローブについては、今回は山行中ずっと、インナーグローブ+防寒テムレスでしたが、下山時はテムレスでも蒸れました。
パートナーは昔ながらの未脱脂ウールのグローブで快適だったそうです。
凍っていたり、モフモフの新雪が溜まっていると、怖い八丁坂。
見下ろすとかなりの高度感がありますが、雪が少ないおかげで楽に下山できます。
ただし、オットセイ岩の周辺が積雪量が一番多く、先行者のトレースも歩幅が合わないので、足の短い私は苦労します。
あっという間に千畳敷。
振り返ると稜線で切り分けられた青と白のコントラストが視界を埋めます。
光り輝く銀嶺に、風が織りなす芸術、シュカブラやエビの尻尾。
小屋泊ならではの刻々と変化するグラデーションに包まれる贅沢な時間を過ごすと、
人は自然のなかに存在しているということに改めて気づかされ、その中で生きることの大変さや素晴らしさやを教えてくれます。
・注意点
<雪崩>
冬の千畳敷はなんといっても雪崩!
雪崩の起こりやすいコースは、
①サギダル尾根から神社に向かって。
②宝剣直下からカール中央を横断するもの。
③八丁坂登山道から向かって右の岩峰からカールの底に向かって。
状況に応じたルートファインディングと、ビーコン、ゾンデ棒、スコップは必須です。
もちろん定期的に練習して、いつでも使えるように。
こちらの記事に詳しく書いてあります。
<八丁坂上部の滑落>
今年は夏道が見えているほど積雪が少なく登りやすかったですが、基本的には、オットセイ岩から上部は、カリカリに凍ってアイゼンが効かないほどになることも。
あるいは、積雪が多いと下山時に踏み抜いてそのまま雪面が崩壊&滑落。というパターンがあります。
途中で停止する地形ですが、人にぶつかったりしたら大変。
また、八丁坂は上に行くにつれてボトルネック上に狭くなるので、先行者の滑落に巻き込まれたり、アイゼンを履いたままシリセードしてくる人もいたりします。
前爪のあるアイゼンにピッケルはもちろんですが、ヘルメットも必須ですね。
<気が付いたら凍傷になっていた!?>
稜線上は基本的に強風です。
同じ方向からずっと風にあたっていると、気が付いたら頬っぺたや鼻が凍傷になることもあります。後日ペローンを皮膚が剥けてしまったり・・・バラクラバやシェルのフードで防ぐと安心です。
<ホワイトアウト>
天候は常に気にしておく必要があります。
必死に登っていると視界が狭くなりがちですが、遠景の空も見るようにして、ガスの流れを確認します。
数分で一気に真っ白になることもあります。賽の河原のような開けた場所では方向がわからなくなり、平衡感覚もなくなり、緩い斜面で転倒~滑落なんてこともあります。
ホワイトアウトナビゲーションを作成したり、GPS端末があると良いと思います。
・まとめ
この季節にしか見ることのできない絶景がある木曽駒ヶ岳。
ロープウェイでアクセス貴重な場所である反面、ついつい気持ちも緩みがちですが、ここは3000m級の立派な高山、中央アルプス最高峰です。
登る自信がなくても、ホテル千畳敷で宿泊すると、千畳敷をスノーハイクしたり、満点の星空を鑑賞したり、雪山の厳しい環境と、自然が織りなす美しさを十分堪能することができます。
夏や秋に訪れたことがある人も、ぜひ冬の絶景を楽しみに訪れてみてはいかがでしょうか?凍てつく澄み渡った空気で、心が洗われるようです。
・YouTube
今回の絶景や、注意点をYouTubeにもアップしました。
ぜひご視聴&チャンネル登録よろしくお願いします。