厳しくも美しい 岩と雪の西穂高テント泊
残雪期———心地よい春の陽気の北アルプス。
まだまだ雪の残る北アルプス。日中はTシャツでも動けるほどのポカポカ陽気の中、
山の息吹を五感で受け止めながら、西穂高独標までテント泊で行ってきました。
日程:4月下旬 1泊2日
・山行計画
<駐車場>
新穂高第3駐車場(P5)
※冬季はこの駐車場のみ。深山荘の脇が駐車場です。隧道の切れ目に入口があるので見逃さないように注意が必要です。
<Day1>
新穂高ロープウェイ8:30→ロープウェイ西穂高口09:00→西穂高山荘10:00
(テント設営)西穂高山荘12:30→西穂高13:30独標
<Day2>
西穂高山荘10:00→ロープウェイ西穂高口11:00→新穂高ロープウェイ11:45
・ロープウェイ料金など
<新穂高ロープウェイ>
・大人往復3000円(JAFカード、モンベルカードで300円引き)
・荷物6kg以上は往復600円
所要時間は25分
この時期の始発は8::30となります
・装備
<服装>
・ノースフェイス マウンテンジャケット(ハードシェルジャケット)
・モンベル アルパインパンツ(オーバーパンツ)
※ハードシェルは着ませんでした。
・モンベル ゴアテックスアルパインスパッツ(ゲイター)
・ノースフェイス バーブパンツ(パンツ)
・パタゴニア レビテーションフーディ(ソフトシェル)
・マウンテンアスレチックス半袖Tシャツ(夏用速乾T)
・スマートウール エクストラヘビーソックス(靴下)
・防寒テムレス、未脱脂ウールグローブ、フリースグローブ、ブラックダイヤモンド ソロイスト(グローブ)
・ニット帽、ネックゲイター←使用しませんでした。
・ゴーグル、サングラス
<テント泊装備、登山装備など>
・アライテント、エアライズ他
詳細はこちら
・登山ルートの詳細
<駐車場>
駐車場はいつもの深山荘の隣。
これから山に登るというのに、ここから新穂高ロープウェイの駅まで、たった数分歩くのが何故かとても億劫(苦笑)
ソールの固い冬靴をボコボコ鳴らして歩くと、早速気持ちも盛り上がってきます。
<新穂高ロープウェイ>
まずは岐阜県警新穂高登山指導センターに登山届を提出します。
登山届は、駅舎の中や、新穂高口でも提出できます。
遭対協の隊員さんがいて、提出忘れを確認してくれます。
ロープウェイの始発は8:30です。駅建物が開くのが8:10分。
夏には登山者と観光客で賑わっていますが、この季節は静かです。
春とはいっても北アルプスの麓。ひんやりした空気が、心地よい緊張感。
ロープウェイは途中で第2ロープウェイに乗り換えます。
二つのロープウェイを合わせて約25分の空中散歩を楽しんだら、西穂高口駅に到着です。
雪はまだまだ、地面が見えないほどあります。
ここではアイゼンは必要なく、つぼ足でいけますが、テント泊装備の重さでズルズルと後ろに滑り、トラクションをロスするので、アイゼンを装着します。
西穂高独標、いざゆかん!
序盤は樹林帯の観光客向けの散策コースから。
アイゼンの爪が効くので、前へ前へずんずん進みます。
ザックのベルトがその重みで、ぎゅ、ぎゅ、と鳴ります。
テント泊の重装備のときは体幹がブレるのでトレッキングポールがあると役立ちます。
樹々の間から漏れる陽光がキラキラ。
途中から急登になり、おまけに樹林帯で先が見えないので、いつもの「山荘はまだですか?今何分くらい歩きましたか?」と、何度も聞いてくるパートナーに、スニッカーズを与えて原生林の静けさを取り戻します(笑)
コメツガやオオシラビソの樹々の間から時折見える西穂の稜線と、南岳から伸びる主稜線の先に槍ヶ岳も見えます。
頭上の樹木が少なくなってきたら、山荘が近い証拠!
ゆっくり登って約1時間ちょっとで、西穂山荘に到着。
なんだかんだ久しぶりの西穂山荘。
テントの受付をして、設営します。
・テント場料金など
<西穂山荘>
・一泊2000円/一人
・水場なし
・携帯電波あり(良好)
・広さ:30張
・自販機あり
・テント泊用外トイレあり(とれもキレイです)
整地にはスノーショベルが大活躍します。
ここは丸山方面から強風が吹き下ろすことが多いので、向きを考慮して・・・
目印のタルチョを張ったら、我が家の完成です!
ドリンクホルダーも(笑)
コーラを飲みながら、雪上でゆったり過ごせるこの季節♪
目を閉じても雪面に反射する陽光が明るいのがわかります。
Tシャツ一枚でも暖かい。
天国~!
「このまま、ここでのんびりするのもいいなぁ~」と、いつもの誘惑が(苦笑)
日帰りのお客さんはどんどん山頂に向かっていますが、西穂山荘名物のラーメンで昼食。
焼岳から往復6時間かけて、このラーメンを食べに来た日を思い出します。
通常は独標までなら日帰りで十分なのですが、やっぱり山で過ごしたいので、今日はテントを担いできました。
それに独標手前の急傾斜は、登山者が多いとボトルネックになってしまいます。
積雪期の急傾斜が苦手で、進むのが急に遅くなる私は、「迷惑をかけないように」と、余計に緊張するので、日帰りのお客さんが帰るころにアタックしようという算段です。
ほとんどの人が下山した頃、アタックザックを背負って出発です。
※ここからは、ピッケル、アイゼン(前爪のあるもの)、ヘルメットが必須です。
しばらくは岩の間の急斜面を進みます。
その後、途中の丸山までは、傾斜も緩く、広々としています。
凍ったり、視界不良や強風でなければ、比較的危険はありませんが、山荘までの登りで太ももがパンプ気味なので地味にキツイ。
所々夏道になっていまが、まだまだ前爪のあるアイゼンが必要です。テント泊では、朝起きたら雪で一面真っ白なんてこともあります。
左手に真っ白な笠ヶ岳を望みながら進むと、広い道の途中に丸山があります。
さらに進みます!
進む先にはジグザグの登山道が見えますが、今回は夏道の右側の雪面を迂回直登し、独標直下で正規ルートに復帰しようと思います。
※当然植物を傷つけないよう、また雪面の状況を確認しながら危険の無いように登ります。
失敗!直登が地味に太ももをパンプさせます。
長い!
やっとのことで夏道に復帰です。
ここでアイゼンを外します。
こんもりした岩のゴツゴツしたピークが独標です。
独標手前のゴジラの背のようなところは急な下りがありますので、バックステップで。
シャンクの固い冬靴がある歩きにくいです。
ほとんど雪も付いていないので、このあたりでピッケルをしまえば良かったです(反省)
独標の取り付き点。
ここに中途半端に雪が残っていると、かなり恐怖なのですが、今回は安心ですね。
ピーク直下の急傾斜が核心です。
厳冬期にはけっこう怖かった記憶が蘇ります。
恐怖は危険のサインですが、乗り越えなければレベルも上がらない。
危険と挑戦の境界線を見極めながら、進みます。
西穂山荘から1時間、登頂!
今回は、雪も無かったので例年よりは登りやすかったです。
山頂からは、正面に西穂への各ピーク、そして奥穂から吊尾根を通って前穂が壁のように聳えています。
左は笠ヶ岳が美しい。
右は、上高地を挟んで霞沢岳が鎮座しています。
登ってきた方を振り返ると、焼岳と、そのさらに遠景に乗鞍岳。
ピラミッドピークまで行こうか悩みましたが、微妙に雪の着いた難所が連続することを想像し、ここで景色を堪能します。
せっかくテント泊で来たのだから、翌朝、本峰までやった方が良いのでしょうが、こうして時間をずらして貸し切りの独標で過ごすのも贅沢ですね。
西穂高までの記事はこちら↓
勿体ないですが、陽が傾いてきたので、そろそろ下山です。
やっぱり高度感がありますので、一歩一歩慎重に。
核心部はほんのちょっとの距離でしたが、なかなか緊張しました。
これで雪が残っていたら、きっと喉がカラカラになったでしょう。
下山は、西穂山荘とその向こうの焼岳を眺めながら。
結局最後までアイゼンは装着せずに、つぼ足で大丈夫でした。
・テント泊の寒さについて
<食事について>
夕食は、温かいものが良いので、なべ焼きうどんを作りました。
冬季~残雪期は、当たり前ですが食べ物や飲み物によっても体温を奪われますので、水分も一緒に摂れる鍋料理がおすすめです。
<テント内の寒さについて>
テント内で暖かく過ごし、眠る一番のコツは、床からの冷え対策です。
マットは一番下に、テントと同等サイズくらいの銀マットを敷きます。
薄くても構わないので、隙間をなるべく作らないようにすることで、冷気をシャットアウトします
そして、その上にサーマレストのリッジレストソーライトという片側が銀色になったものを敷きます。
これだけで、かなり違ってきます。
今回は歩行時間が短かったので、シュラフも厳冬期用、ダウンパンツにダウンジャケットを着込み、足元は象足を履いて、さらにカイロを併用したため、寝汗をかくほどでした(汗)
よく、夜寒くなったときに耐えられなそうだからと、寝るギリギリまで着込むのを我慢していたのですが、一度冷えた身体は、運動量の少ないテント内ではなかなか温まりません。「寒いなぁ、寒い」と思いながら気が付けば明け方なんてこともあります。
その日の行動が終わったら、早めに暖かい恰好をするのが良いと思います。
・下山の注意点(西穂山荘~西穂高口)
登りのときに、急登だなぁ、と思っていた箇所は、当然高度感があります。
さらにこの時期は雪が腐っているので、ズルズルと滑ったり、トレースを尻セードで滑り台にされていたり、人を避けようと脇にいったら踏み抜いたり、油断せずに最後まで進みます。
ポールを使う場合はスノーバスケットに交換すると良いと思います。
たった一時間の行程ですが、ついつい気が緩んで地味なケガをしないよう、重装備のときは、トレッキングポールを使用したり、アイゼンも装着しておくと安全だと思います。
また、視界不良時の樹林帯は、迷いやすく、先行者のトレースなのか、枝から落ちた雪の跡なのかわからなくなってしまいます。
実際、間違って進んだらしきトレースをいくつも発見しました。
西穂平への歩荷道に迷い込んでしまい、救助要請となった例もあるようです。
・まとめ
残雪期の西穂は、例年天候に恵まれず、積雪量もイヤらしくて独標直下が恐怖でした。
今回は良い塩梅に融雪が進み、ほぼ無風の快晴の中の山行でした。
テント泊の場合、翌日天気が急変なんてこともありますので、装備は完全冬装備を基準にすると安心です。
それでも冬靴のシャンクの固さで岩場歩きがぎこちなくなったり、暖かい季節になりましたが、逆に難しい時期だと思いました。
<POINT>
・基本的には雪山装備で
・この時期はまだまだ前爪のあるアイゼン
・視界不良時の樹林帯、丸山周辺の広い稜線は道迷いに注意!
・日焼けに注意!
春の開放的な陽気と、きらきら輝く残雪。
岩と雪のモノトーンの山肌に、青空とのコントラスト。
険しい峰々を舞台に自然が織りなす美しさは、訪れた登山者に感動のひと時を与えます。
・youtubeにも詳細をアップしましたので是非ご覧ください!