残雪輝く蓼科山へ
蓼科山は標高2531m、八ヶ岳連峰の一番北に位置し、山頂は360°のパノラマが広がる、信州きっての名山です。アプローチが短く、登山初心者にもおすすめです。
冬季~残雪期は、入笠山や北横岳に並んで、入門コースとしても人気があります。
ただし、山頂は独立峰ならではの爆風になることが多いので注意が必要です。
今回は、そんな蓼科山に残雪を求めて登ってみたいと思います。
・積雪期のルートについて
最短ルートは7合目登山口なのですが、冬季は11月下旬から5月上旬は通行止めとなるので、マイカーを利用する場合は、①白樺国際スキー場の上部からアプローチするか、ビーナスラインの②女乃神茶屋登山口からのコース、そのちょっと先にある③竜源橋登山口からのコースがあります。
中でも、女乃神茶屋からのコースは、駐車が30台可能で、南斜面にコースがあるため、季節風の影響を受けにくく、中腹からは、南八ヶ岳の展望が広がります。
蓼科山は、北八ヶ岳おなじみの、シラビソの森が縞状に枯れる「縞枯れ現象」も見られます。
・女乃神茶屋登山口から
3月下旬。ここ八ヶ岳の麓も春の陽気に包まれています。
この時期になると、日に日に雪解けが進み、一週間でルートの状況も大きく変わってきます。
ビーナスライン沿いにある、女乃神茶屋の向い側が駐車所です。
6:30に到着すると、まだまだスペースには空きがあります。
冬季はトイレは一基のみ使うことができます。
※水道や自動販売機はありませんので注意が必要です。
※頂上ヒュッテが冬季は営業していませんので、道中にトイレはありません。
山でよく使われているのが、この携帯トイレです。
ニオイもしませんし、頑丈な袋なので持ち帰りも安心です。
駐車場からすぐの、バス停の脇が登山口です。
蓼科山、いざゆかん!
登り始めは、爪先上がりの森の中を、ウォーミングアップのつもりで進みます。
ミズナラの林の急坂です。岩がゴロゴロ。久ぶりの山行で体力が落ちているのが良くわかります。
樹々の間から差し込む陽光が、地面にレース模様を織りなします。
岩混じりのルートは、まだツボ足で進めます。
途中、融雪が凍り、さらに踏み固められ、傾斜もきつくなってくると、もう歩けませんので、ここでチェーンスパイクを履きます。
これまで、残雪には軽アイゼンを使っていましたが、
コイツを導入してからは出番はほとんどチェーンスパイクです。
低山の雪山などでチェーンスパイクを使っている人は多いと思いますが、
これは、一般的なチェーンスパイクと違っていて、
なんと!
小さな前爪が付いています。
マジックマウンテンが輸入している、Snow Lineのチェーンセンウルトラというモデルです。
前爪を蹴り込むような使い方はできませんが、一般的なチェーンスパイクよりも、2本の爪が前方にセットされていることで、爪先で岩やステップに立ち込むときに、しっかり効いてくれます。
歩行時は全ての爪を雪面に食い込ませるフラットフッティングが基本ですが、この特徴的な前爪のおかげで、蹴り出すときのトラクションも効きやすいですし、凍結した急斜面や、固く締まった雪面のハイクアップでは、従来のチェーンスパイクより疲労も少ないです。
あ、あくまで残雪期の低山で使うものですので注意してください。
蛙石
次第に樹木はまばらになり、北八ヶ岳ならではの明るい雰囲気に。
すでに汗ばんでいます。
こんな季節は天候が確実に晴れるならソフトシェルジャケットが快適です。
大岩を越えると、標高2,120m地点です。
平坦なので、休憩しやすいポイントです。
振り返ると、雪を被った南アルプスが見えます。
休憩は、ヘルシーファッジという冬季にいつも作って持ってくるお菓子でエネルギーをチャージします。作り方はまた今度紹介します。
砂糖を入れ過ぎたため、喉が焼けるような甘さ。まだ標高が低いからかなぁ。
道中はトイレが無いというのに、水分をがぶ飲み(笑)
しばらくは平坦な道を進むと、樹々の切れ間に山頂が見えてきました。
幸徳平。〇〇平と名の付くわりに、登山道の通過点の一つです。
例の看板。
また急勾配です。ここから山頂まで、長い長い急坂が続きます。
岩と残雪が交互に現れます。爪の短いチェーンスパイクは、こういう季節は本当に便利ですね。
でも、木の根や、岩肌、木道などを傷つけないよう、注意が必要です。
こりゃ、下山が遅くなって凍ったら滑り台だなぁ。
縞枯れ現象。
八ヶ岳では、森林限界を超える手前で発生し、特に南斜面で良く見られます。
縞枯れ帯を抜けると、岩がゴロゴロしたゾーンに。
ここから先は、強風になりやすいので、体感温度も下がります。
強風が頬や鼻先に当たり続けると凍傷になることもあるので、シェルのフードの調整など、防寒対策をしっかりして進みます。
強風のためか、雪はほとんど付いていませんので、ここでチェーンスパイクを外します。外したチェーンスパイクは結構汚れているので、雨蓋にレジ袋を入れておくと、そのまま放り込めるので便利です。
黄色いペンキの目印に沿って進みますが、2~3メートルの大きな岩がゴロゴロ積み重なっているので、岩の間を踏み抜かないように注意が必要です。
鎖もありますが、使うほどでもありません。
目印のオレンジ色のポールがあるので、雪に埋まっていても、余程のドカ雪やホワイトアウトでもなければ、ルートを見失うことは少ないです。
振り返ると、南八ヶ岳とその遠景に南アルプスが雲に浮かんでいます。
ここから山頂へは、東の山腹を右に巻いて進みます。
蓼科山頂ヒュッテが見えてきました。
蓼科山頂ヒュッテは冬季は営業していませんが、営業期間には可愛らしい手ぬぐいが売っているのでおすすめです。
登山口から2時間20分、
登頂です!
今日は風もほとんど無く、最高の眺望が広がっています。
尾崎喜八の誌を断片的に思い出しながら、ゆったりした時間を過ごします。
風がなくてもじっとしていると寒いのでビレイヤーダウンを羽織ります。
ちょっと早いお昼ご飯はカップ麺。
山の神様は女神様なので・・・
食後は山専ボトルに入れてきたお湯でインスタントコーヒーと、自作のヘルシーファッジです。
周囲どこを見ても絶景の山頂で、贅沢な時間が流れます。
周囲400メートルほどの広い山頂が広がり、真ん中には蓼科神社の奥宮があります。
方位盤によじ登り、ぐるっと回りを見渡すと、
諏訪湖の向こうに車山高原。そのさらに奥が北アルプス。右のギザギザが穂高連峰、さらに右のギザギザが立山。戻ってちょうど正面に乗鞍岳が見えます。
左にまわって、
御嶽山と中央アルプス。木曽駒ヶ岳と空木岳が特徴的に飛び出しています。
南アルプスは大きな仙丈ケ岳の稜線が見えます。
その手前はギザギザの南八ヶ岳。
さらに手前に並ぶ丸い山々が北横岳、縞枯山、茶臼山です。
もっと左に回ると、浅間山と四阿山、根子岳も見えます。
この眺望こそ蓼科山の一番の魅力ではないでしょうか。
広大な長野県を北端から南端までぐるっと見渡すことができるなんて、他ではできません。
静かで広大な岩と雪の山頂は、まるで時間が止まったようですが、けっこう時が経っていました。
名残惜しいですが、下山開始です。
急斜面は凍った岩が滑るので、慎重になります。
固められた雪が削られ、荒れているので滑っている人もいました。
バランスを保つ程度に使用するのでしたら、トレッキングポールも便利です。
岩の間は雪の下が空洞になっていることもあるので、この半端な時期は、雪面にストレスをかけないよう慎重に歩きます。
下山は山頂から約2時間。
光り輝く残雪に、雪解けから顔を出した青く光る原生林。自然の不思議が織りなす縞枯れ現象。その中をゆっくり歩くと、一気に展望が開け長野全域まで見渡すことができ、峰々から山の息吹が伝わってきます。
北八ヶ岳の魅力がたくさん詰まった春の蓼科山は、訪れた人の心に感動のひと時を約束してくれます。
・今日のウェア
・パタゴニア レビテーションフーディ
・アイスブレーカー ウールTシャツ
・ユニクロ ヒートテックロングスリーブT(一番薄いやつ)
・ノースフェイス バーブパンツ
・キャラバン RLメリノ エクスペディションクルー ソックス
・L.L.bean プリマロフト サーマストレッチグローブ(ポケットに入れたまま使いませんでした)
・モンベル ゴアテックス アルパイン スパッツ(ザックにしまったまま使いませんでした。
<持参したウエア>
・パタゴニア DASパーカ(山頂の休憩時に着用)
・ハードシェル
・オーバーパンツ
・予備のグローブ(厳冬期用)
・予備のソックス(厳冬期用)
・ネックゲイター
・まとめと注意点
北八ヶ岳ならではの、明るくて気持ちの良い樹林帯の雰囲気が、メルヘンの世界です。
縞枯れ現象に、所々に現れる残雪が粉糖を散りばめたお菓子のようで、気温も暑すぎず寒すぎず楽しい山行でした。
残雪期は、技術、ウェア選びや装備選びが難しく、結局ザックにしまったまま使わないものもたくさんありました。いつものエマージェンシーグッズ(ツェルト等)に加え、12本爪のアイゼンやピッケル等、ザックは結構な重量になってしまいました。
でもこの時期は天候も崩れれば雨でずぶ濡れになったり、寒ければ一気に真冬に逆戻りなんてこともあります。実際に現場に行ってみないともなんとも言えないので、どうしても装備が増えてしまいます。
蓼科山は、雪山入門の山と言われていますが、山頂部は爆風の覚悟が必要です。
夏と厳冬期は何度も登っていますが、残雪期に登るのは初めてで、春の暖かさで気持ちも緩みがちですが、色々なケースに対応できる準備が必要だなと感じました。
公式YouTubeチャンネルにも詳しい様子をアップしましたので、是非ご覧ください。