薬師岳をテント泊で縦走登山【二日目】
今回は折立から立山まで、薬師岳を目的にテント泊で縦走します。
昨日は折立から入山し、薬師峠に幕営しました。
今日はいよいよ縦走のメインである薬師岳を踏んで、スゴ乗越小屋のキャンプ場に幕営します。
ルートの核心部や、スゴ乗越キャンプ場の攻略法なども紹介したいと思います。
・薬師岳について
標高は2,926mで、北アルプスの最深部に位置し、そのたおやかな山容はずっしりとした面積と質量で、霊山の名に相応しく、北アルプス一の美しさとも言われています。
昔は立山というと、薬師岳まで含んでいたそうで、名前の由来は、麓の有峰の村落の人々が薬師如来の山として、山頂に祠を建てたそうです。
特徴的なのは、3つのカールがあること。山頂をはさんで、南稜カール、中央カール、そして北薬師との間にあるのが金作谷カールという名前がついています。
表銀座や裏銀座、槍穂連峰のような派手さはないものの、大きなスケールを縦走するのにおすすめのルートです。
・登山ルートの詳細
早朝3時30分、静かに撤収して、出発です。
薬師岳、いざゆかん!
ヘッデンの明かりのみを頼りにそっとテント場を通過します。
歩き始めは、ゴツゴツした岩の急登です。
辺りを包む霧にヘッデンの光が反射し、視界が悪い。
湧水が流れる滑りやすいルートなので、慎重に進みます。
急登を登り終えると、右手に折れます。
ベンチとケルンが立つ小さな広場が薬師平。
残念ながら暗くて見えず写真が撮れませんでした。
薬師平を過ぎると左に折れて、お花畑が広がる緩やかな登りになります。
青白くさわやかに寒い朝がやってきました。
稜線に飛び出すと、なかなかの強風。
一気に体温が奪われ、手先はぴりぴり痛むほどです。
先に目をやると、ガスの切れ目に、東南稜分岐のピークが見えます。
さらに奥に、白くザレた特徴的なピークの先が本峰。
ここからは、晴れていたら眺めのよい尾根沿いのガレ場を進みます。
ゆっくりと明るくなると、足元ばかり注意していた視野に余裕ができ、周囲に広がる佳景に気づきます。ついついニヤリとしてしまいます。
背の低いハイマツに引かれた白い道。
ガラガラと音を立てる、つま先上がりの道。
下界はまだ目を覚ましていないだろう時間帯に、全部ひとり占め。
茶色の外壁が可愛らしい薬師岳山荘に到着です。
泊りのお客さんはご来光目当てに、ダウンジャケットを着込んで静かに散歩しています。
薬師岳山荘は2010年に建て替えられたそうで、立派で綺麗な建物です。
山頂までは50分なので、ここに泊まってピストンするのも良さそうですね。
ここからは、ザレザレの道に足をとられてしまい、なかなか前に進まない。
右手には南稜カール。
森林限界を超え、何も遮るものがないので、強風に大きなザックが持っていかれます。
コースタイム通りには進みません。
光彩の中に小さく見える四角い影は、石組みの避難小屋ですが、倒壊が進んで風避け程度のものだそうです。
西側斜面を巻きながら登っていきますが、日本海からの爆風が容赦なく叩きつけます。
高山ならではの洗礼を全身で受け止めます。
白い光を投げる中心に向かって一歩一歩。
右手は中央カール。残念ながらガスの底に沈んでいます。
花びらから透けて見えるように、山頂が見えてきました。
登頂しました!
風も強く、景色もあまり見えない中、重たい装備を担いでの登りは、キツさの連続だったぶん、嬉しい瞬間です。
頭の中に記憶している地図を思い浮かべると、歩いてきたルートの長さも、登頂の喜びを増加させます。
キツイ、楽しいの繰り返し。この感じがとても好きです。
薬師堂の影で風を避けて休憩します。
角閃岩を含んだ石英斑岩を積み上げ、風雪から守られたお堂。
けぶるような雨粒まじりのガスと強風の中、薬師堂には、三体の薬師如来と11体のお地蔵さんが祀られています。
さて、じっとしていると寒いので早々に出発します。この先はまだまだ長い。
鈍色の金作谷カールには雪渓も残っています。
ここから北薬師までの稜線が、今日のルートの核心部です。
<核心1>
小さなコブを二つ過ぎると、痩せ尾根があります。
ザックが重いので左側への滑落に注意が必要です。
雨粒が大きくなり、砂のように顔に突き刺さります。
おまけに風で煽られて、歩くのも大変です。
普段の岩稜歩きは楽しいですが、悪天候だとなかなか大変です。
<核心2>
そして狭い岩場の登り。
スタンスは豊富で、高度感
もそれほどありません。
ザックの重さで一段一段がキツイです。
そして、とにかく爆風が襲ってきます。
北薬師の山頂直下をジグザグに登ります。
標高2,900m
北薬師岳
顔と髪の毛はビショ濡れだし、強風がどんどん体温を奪う。
撥水加工のされているソフトシェルはこのくらいの雨でも機能してくれます。
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そのままさらに西側斜面を。
相変わらず方向を定めないまま吹き荒れる風と雨。
ルートの前後に他の登山者の姿はなく、ただただ灰色の世界を進みます。
こんなに誰ともすれ違わないのは珍しい。
不安になりますが、眼下を見ると晴れ間が見えますので、焦らず信じて、落ち着いて進みます。
こんな過酷な環境に可憐に咲くチングルマ。
やがて大きな露岩がゴロゴロしているゾーンに突入。
これがけっこう長い。
おまけに濡れて滑るので慎重になります。
赤茶色の砂利道になると、なだらかですが、ザックの重さのせいで、ブレーキが効かずに滑ります。
ハイマツの中を突っ切ると、U字状の中を進みます。
お花も増えてきて、乳白色のメルヘンチックな世界に。
右手には尖ったピークの烏帽子岳が見えます。
広い稜線をハイマツが覆っています。
その先の丸いピークが間山。
右手が崩壊した稜線のスレスレを進みます。
ザックが重たいので、滑落しないように。
間山。
標高2,585m
山頂裏、北東の「間池」は湧水で、スゴ乗越小屋はここから水を引いています。
さらにハイマツの中の登山道を進むと、急な下りになります。
小さく見えているのがスゴ乗越小屋。
ここからが遠い!
足の指はモートン病で痺れと痛みが。
肩もガチガチで激痛との闘いです。
シラビソの樹林帯に入ればもうすぐ。
スゴ乗越小屋です。
風に揺れるタルチョ。
・スゴ乗越小屋キャンプ場の攻略法
結論から先に言うとスゴ乗越小屋キャンプ場の注意点は、雨天時に水が流れ、溜まりやすいことです。
地面の砂がきめ細かく、やけにフラットなところが雨水が流れたり、溜まったところです。
多少斜めになっていたり、ゴツゴツしていても、降雨によって田んぼ状態になる恐れがあるところよりはマシですね。
実際、私は雨で3泊停滞しましたが、写真の所は、朝目が覚めるとテントのまわりが池になっていたため、引っ越す羽目になりました(汗)
上の段の緑のテントのお姉さんも一緒に3泊しましたが、やはり設営場所が小川になってしまい引っ越ししました。
<基本情報>
・幕営料金・・・¥700/人
・幕営数・・・約40張
・水場は小屋入り口に水道があります
小屋から1分でテン場です。
・売店
飲み物は、炭酸、ビールなど。
この遠い小屋で買えるなんてありがたいです。
他にもお菓子やカップ麵もあります。
食事も注文できます。
・トイレ
小屋と共用でとても綺麗です。
<一番の楽しみ>
スゴ乗越小屋の名物、スパイスカレーです!
私は停滞中に3食頂きました♪
自宅に帰ってからも再現を試みた程、とても本格的で美味しいカレーです。
小屋の脇には広いウッドデッキやベンチがあり、食後は日陰でくつろぐこともできます。
・危険箇所
<薬師峠からの急登>
湧水が流れていますので、暗い時間帯の行動は、滑りやすいので、注意が必要です。
<薬師岳から北薬師岳>
痩せ尾根の通過と登りは、スタンスはしっかりありますが、強風時はザックが煽られてバランスを崩しやすく、滑落の危険があります。
・おすすめメニューの紹介
結局、スゴ乗越小屋のカレーの誘惑に負け、昼は三食カレーを注文してしまいましたが、しっかり料理もしました。
といっても、いつものパスタや、メスティンで炊いたごはんに「浅草今半 牛肉のしぐれ煮」など簡単なものですが、おすすめしたいのが、プンパニッケルという黒いパンです。
かなり日持ちする黒パンで、腹持ちが良く、独特の酸味のあるボソボソした触感は、好き嫌いがはっきり分かれそうですが、カロリーもあり、麦の食物繊維も豊富なので、山で食べると元気が出る気がします。
クリームチーズや、サラミ、オリーブなどを載せて食べるととても美味しいです。
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・まとめ
「近くて遠いはスゴ乗越」という言葉は当にその通りで、小屋が見えてからがとても遠く感じます。装備の重さの疲労が蓄積していることもあり、折立からは長い下り、立山からはきつい登りとなります。
それから今回はとにかく爆風との闘いでした。バランスも崩しますし、雨混じりのガスに包まれたルートは、寂しい灰色の世界で、ちょっぴり不安にもなります。
それでも勇気づけられたのは、途中すれ違ったスゴ乗越小屋のスタッフさんです。この天気の中を太郎平まで歩荷で往復していました。標準コースタイムの倍速で戻ってきていました。
目的の薬師岳は、裏銀座から見ていた通り大きな山で、変化に富んだルートと、進むごとに変わる景色で、長い行動時間を常にワクワクさせてくれました。
今度は天気の良い日に登ってみたいです。
ルートの詳細はyoutubeにもアップしましたので、是非ご覧ください。
さて、明日は「楽園」とも称される五色ヶ原を目指します。
3日目につづく・・・