登山の一番の魅力は、できるだけ長くその場所に身を置いて、豊に時間を過ごすことだと、思っています。刻々とグラデーションに色が変わる夕暮れ、美味しい料理をつついたり、朝靄に包まれた稜線からの日の出に、一日の希望を感じたり。
不便なことはたくさんあるけど、人間本来の暮らしの中に、忘れていた大切なこと思い出します。だから私はテント泊での登山が大好きです。
夏山も、もちろん素敵ですが、より厳しい環境の中で贅沢な時間が過ごせる、雪山のテント泊も大好きです。
でも・・・
「雪山って、凍死するくらい寒いんでしょ!?」
「ごはんとかトイレってどうするの?」
とか、よく質問されるので、雪山テント泊の始め方と、私の装備と学んだテクニックを紹介します。
・雪山テント泊の始め方
<まずは日帰り登山から>
当然ですが、まずは十分な日帰りでの経験が必要です。
テント泊となると、さらに装備が重くなります。
ただでさえ夏より時間のかかるコースタイムも、もっと伸びてしまいます。
技術的にも、夏山とは全く別物です。
しっかりアイゼンを効かせて歩けるか?
危険個所の察知はできるか?
天候の変化による危険性を知っているか?
雪山がどんなものかしっかり知ってから、
・・・「知る」というのは「怖さ」を知ってから始めると安心かなと思います。
滑落、雪崩、天候の急変、細かなことでは、手袋やゴーグルが凍るなど、少しずつ肌で感じた体験をすると、次の安全につながります。
運が良く、怖い経験が無いまま雪山登山の回数を踏んでいると、どうしても油断してしまいます。
訓練方法としては、例えば、
・急斜面で後ろ向きに倒れ、滑落停止の訓練をする
よくあるツアーの訓練では後ろ向きに倒れたりはしません。
・ビーコンの使い方を練習する
・雪洞でのビバーク訓練をする
など列挙すればキリがありません。
なので、まずは自分のレベルに合った難易度の低い山の日帰り登山から始めると良いと思います。
<経験者と一緒に行く>
いきなりネットや本で得た知識だけで行くのは危険です。
「雪山」と一口に言っても、11月~5月まで、山では長い期間が雪山です。それぞれの時期や山域によって、装備や注意点が違ってきます。
ネットや本では、状況に合わせた知識まで細かく説明してありませんので、まずは経験者と一緒に行くと良いと思います。
ツアーもありますので、信頼できるツアーを探してみてください。
<低山や、雪上キャンプから始める>
それでも一緒に行く経験者がいない場合は、冬季でも営業しいてる里山のキャンプ場で雪上にテントを張り、無雪期との違いを経験してみると良いと思います。
寒さや、自分の耐寒性、それから装備についても勉強になると思います。
次の段階として、営業中の山小屋に併設されているテント場から始めると、何かあったときに避難できるので安心だと思います。
<しっかりした装備を揃える>
最近ではアウトドアブームもあり、ネットで激安の登山道具やキャンプ道具が売っています。中にはとても怪しいものもあります。雪山装備を揃えるにはとてもお金がかかりますが、道具の破損が命に関わりますので、「お試しでコレでやってみよう」とか「無くてもいいや」というのはとても危険です。
この後に紹介しますが、しっかりした装備が必要です。
山道具屋さんでも、メーカーと取引の都合上、その人に合っていなくても「押し」の商品をおすすめするところもありますし、雪山の経験がないスタッフが接客していることもあります。
信頼できる店員さんを見つけると良いと思います。
私も今の装備に至るまでに、かなり失敗を繰り返し、また、その間に自分のスキルも上がったりして、よりベターな装備に辿り着きました。
・雪山テント泊の注意点
<山行計画>
雪山は、普通に歩くだけでも、時間は倍以上かかることもあります。
地図のコースタイムはあてになりません。
また日暮れも早く、暗くなるにつれて風が強くなるパターンも多いです。テン場に到着するリミットは14:00に設定して計画すると良いと思います。
<装備は使い方を正しく>
せっかく良い装備を入手しても、使い方や注意点を間違えると命取りになります。
例えば、靴をテント内に入れる、ひどいときはシュラフに入れて寝ないと翌朝凍ってしまいます。
他にも、夜間の降雪で夏用テントの裾が埋まり、酸欠になってしまったり、写真を撮ろうとゴーグル外してしまいレンズを凍らせて視界不良になったことによる滑落や道迷いなど、意外な注意点がありいます。
<体力>
冬装備は恐ろしい重さです。夏山のテント泊に慣れていても、さらに重たい装備で雪の上を歩くことになります。下手をすると、ブルーアイスの急斜面を前爪を蹴りこんで登ったり、今にも踏み抜きそうな雪面にストレスをかけないように歩いたり・・・。
相当体力を消耗しますので、日ごろからの体力作りが必要です。
・雪山テント泊の装備
私の使っている装備の中で、比較的ベーシックなものを紹介します。
また、私のものは、コスパ優先で少し使い勝手が悪いものもあるので、実際に先輩から借りたりしたもので、次買うならこれの方が良いというものも合わせて紹介します。
ウエアについては、また別の機会に紹介します。
<ザック>
ザックは、アライテント(RIPEN)のマカルーを使っています。
これは夏でも共通で、シンプルな一気室の昔ながらのザックです。
背負い心地は悪いですが、モンスターゾーンといって上方向に容量が伸ばせるので、冬の重装備でも飲み込んでしまいます。
また、爆風の中、体感温度が-20℃になるような状況での撤収では、スピードが求められます。ザックの一番上に45lゴミ袋を入れて、じゃんじゃんテントを突っ込むことができるので、スピーディーで助かります。
一般的にはおすすめしにくいザックですが、雪山ではポケットの少ないシンプルなザックが良いと思います。
<シュラフ>
シュラフはNANGAのオーロラ700です。
快適使用温度は-5度、限界使用温度は-10℃です。
ダウンの復元力は650FPです。
雪山では800FP以上がおすすめです。
耐寒には個人差がありますが、私の場合は寒さに強い方で、このシュラフで外気温が-20℃、テント内-10℃のときでも、中にダウンジャケットやダウンパンツを着込み、カイロを併用することで、快適に朝まで眠れています。
また、オーロラテックスという撥水透湿の生地を使っているので、濡れる心配もありません。
最新の後継モデルはオーロラ600DXです。こちらの方がスペックは若干上位です。
あ、体を慣らすために、日頃から、家でも冬は毛布一枚だけで寝ることで、徐々に体が慣れてきます。(あまりおすすめできませんが・・・)
<テント内の防寒着>
テント内では、下半身はシュラフに突っ込んで過ごします。
それでも防寒着は必要です。
・象足
mont-bellのエクセロフトフットウォーマーを使っています。
直接足に触れるものなので、洗濯しやすく、テントの床は結露で濡れていることもあるので、濡れても保温する化繊「エクセロフト」のものを使っています。
・ダウンパンツ
ダウンパンツはお馴染みのNANGAのポータブルダウンパンツです。
薄いですが暖かく、シンプルでゴワゴワしないので寝心地も良いです。
とてもコンパクトになるので、真夏以外のテント泊ではいつも持っていきます。
・ダウンジャケット
ジャケットPatagoniaのDAS PARKAです。
ジャケットは行動中に着るシーンも多いので、濡れても保温し、岩で破れても中身が飛び出さない化繊のものを使っています。
ちょっと高額なので、次買うならコレ↓
●POINT シュラフと防寒着は、ダウンと化繊を組み合わせています。
ダウンは軽いですが、濡れるとロフトが潰れて全く保温しません。
化繊は濡れても潰れずに保温してくれますが、重量があります。
そこで、一番大きなシュラフはダウンに、濡れる場面の多そうなジャケットと、象足を化繊にすることで、軽量化とリスクのバランスを考えています。万が一装備が濡れてしまっても、ジャケットを着て、下半身をザックに突っ込むことで凌げるようにしています。
実際にツェルトにこの格好でビバークしたこともあります。眠ることはできませんでしたが、命は助かりました。
<マット>
マットは絶対にクローズドセルのマットにしています。
インフレータブル(空気を入れるタイプ)マットは、穴が開いてしまったら、全く保温しません。昔、破れてしまったことがありますが、床にありったけの衣類やスタッフバッグなどを敷いてなんとか凌いだことがあります。
マットは片側がアルミ蒸着されているものが保温性が高いです。
私はTHRMARESTのRIDGEREST SOliteを使っています。
銀色の面は室内側に向けて、体温を室内に戻すように使います。
さらに、一番下にはホームセンターで売っているような銀マットを敷きます。
これは、薄くても良いので、なるべく大きめのもので、テントの床に隙間を作らないようにしています。
テント内は、床からの冷気が一番寒く感じます。
<テント>
・本体
テント本体は、アライテントのAIR RIZE3を使っています。
AIR RIZEはポールを通すスリーブが片側は行き止まりになっているので、一人で設営するときも便利です。
・外張り
外張りは、絶対雨にはならない厳冬期には冬用外張りを使います。
冬用外張りは、保温性と耐風性を目的に、密閉性を高く作られている日本独自のものです。
生地は撥水加工がされていないので通気性があり、大きなベンチレーターを装備し、一酸化炭素中毒に配慮した作りになっています。
ただし、万が一雨になると、本体まで濡れてしまい、テント内がプールになってしまいます。
濡れた外張りが翌朝凍ると、酸欠になってしまいますので使う季節は限られます。
なので、基本的には3シーズン用の外張りでも良いと思います。
ただし、寝ている間の降雪で裾が埋まると酸欠になるので、要注意です。
実際に一酸化炭素中毒は簡単に死んでしまいますので、換気には十分注意してください。
・ペグ
ペグは普通のペグは抜けてしまいますし、横にして埋めてしまうと、凍った場合に回収が困難になるので、「竹ペグ」を使います。
竹に穴を開け、麻紐を通して完成です。竹も麻紐もホームセンターで売っています。
割りばしで作っている人もいます。
これを雪面に埋めて固定します。
もし撤収時に凍ってしまっても、麻紐を切って残置してきても、天然素材なので環境破壊になりにくいです。
バッグ状のものに雪を詰めてアンカーにするものもありますが、これも凍って回収が大変になることもあります。
・グランドシート
グランドシートもアルミ蒸着のものを使っています。
アルミ面を上にして使うことで、冷え対策に一役買っています。
難点は少し重たいことです。
・スノーショベル
スノーショベルは、LIFE LINKのガイドショベルというモデルを使っています。
ショベルは、ビーコン、ゾンデ棒と合わせて雪山の三種の神器と言われる必携アイテムのひとつです。
ショベルは、雪崩救助以外にも、雪洞掘りや、テント設営のときにも使います。
設営面を整地したり、スノーブロックを切り出すのに使います。
シャフトが分解できて、フラットな形状が良いと思います。
選ぶときは軽くて大きいものが良いと思います。
もっと軽くて使いやすいのはこちら↓
<小物類>
他にも列挙するとたくさんあるのですが、冬に必要なもの、あると便利なアイテムを紹介します。
・ガスカートリッジ
ガスは、夏に使っているノーマルガスは低温下では使えません。
PURIMUSのハイパワーガスか、さらに気温が低い場合は、EPIgasのエクスペディションが良いでしょう。
裏技として、カメラのレンズ用のヒーターを缶に巻くという方法もあります。
これは、スマホ用充電器に接続して使います。寒さでバッテリーの減りが早いので、多めに持っていくようにしています。
・たわし
テントを設営して、「よし荷物を中に入れよう!」というときザックが雪まみれ!なんてことがあります。手で払ってもこびりついてなかなか取れません。
「たわし」を持っていると簡単に落とすことができます。
・ハクキンカイロ
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
本当におすすめです!
・簡易浄水器と折り畳み漏斗
雪を溶かして水を作る場合は、簡易浄水器を持っていきます。
新雪でも溶かしてみるとかなり汚いです。
ゴミやチリ、何だか知らないけど妙に泡立っています・・・。
簡易浄水器でろ過してから、山専用ボトルに移すのですが、折り畳み漏斗があるとこぼしにくくなります。
漏斗にコーヒーフィルターの組み合わせでも、目に見えるゴミは取れますのでおすすめです。
蛇腹のタイプより、さらにコンパクトになるのはこちら↓
・ナルゲンボトル
沸かしたお湯を入れて湯たんぽにすると、あら不思議?
シュラフに入れると朝まで暖かいです。
翌朝はこのぬるま湯を使って調理できるので一石二鳥です。
・100均のドリンク保冷袋
バッテリーを入れて、寒さによる減りを防ぎます。
他にも、コンタクトレンズなんかも凍らないように入れておきます。
・スマホ用タッチペン
グローブを外すと指が凍りますので、行動中に使いたい場合はタッチペンがあると安心です。
スマホにも、タッチペンにも、とにかくあらゆるものに細引きを付けて落とさないように注意しましょう。カリカリのアイスバーンではフラットでも風に吹かれただけで飛んで行ってしまいます。
衣類のジッパーも細引きを付けてグローブしたままでも掴めるようにしています。
指が凍った場合は、腕をぐるぐる振り回すと復活することもありますが、凍傷で数か月しびれが取れないないんてこともしばしばあります。
・携帯トイレ
冬季はほとんどの小屋が閉まっています。
小屋開けの春先になると、結構〇〇〇や使用済みのトイレットペーパーが落ちているのを見かけます。
マナーとして必携ですし、悪天候でも最悪テント内で使うこともできます。
・まとめ
いかがでしたか?
今回は、いろいろ装備を紹介しましたが、雪山では「技術」「装備」「知識」が揃っている必要があります。今は、装備やウエアの進化により、死亡事故のリスクは減ったそうですが、気軽に登ってしまう方が増えているそうです。
過酷な環境を体験してはじめて見えてくることも多いです。とは言え、挑戦と危険の境界を見極めることが難しいです。
それでもそんな過酷な環境だからこそ味わえることが、雪山テント泊の魅力ではないでしょうか。
YouTubeにも装備の紹介をアップしましたので、是非ご覧ください。
ウェアや登山装備については、また次回ご紹介します。
私のお気に入りアイテム♪こちらもご覧ください↓
雪山テント泊、いざゆかん!
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