裏銀座縦走 二日目 烏帽子小屋から水晶小屋へ 超ロングコースを行く
昨日は七倉山荘から入山し、日本三大急登に数えられるブナ立尾根を登り、烏帽子岳に登りました。
裏銀座縦走の二日目となる今日は、ひたすら続く絶景と、ひたすら続くアップダウン。
一体どうなるのか!?
・三ツ岳でご来光
深夜2:00
まだ星の瞬く中、静かにテントを撤収し、出発します。
できれば今日は三俣山荘まで行きたいのですが、三ツ岳、野口五郎、水晶ピストン、ワリモ岳、鷲羽岳と長時間のアップダウンとなり、疲労の蓄積によっては無理すると事故に繋がりますし、新穂高までの下山も控えていますので、様子を見ながら進むことにしました。
テントは結露で重くなり、昨日のブナ立尾根の疲労と相まって、重い足取りです。
ヘッデンはブラックダイヤモンドのスポット。
夜間の出発のため、光量はもちろん、照らす範囲の広いものがおすすめです。
今回の縦走は夜間行動が多いため、もちろん予備のヘッデンも持ってきました。
暗闇の行動はだいぶ慣れてきましたが、油断すると地味な怪我につながるので、慎重に。
視界の開けた稜線を歩くので、ルートをロストすることもありません。
おしゃべりしながらマイペースで登って、気が付けば三ツ岳です。
ゆっくり確実にとオレンジ色の縞を水平に広げる空。
刻々東の空の色が変化していきます。
この先は稜線コースから野口五郎岳を目指します。
雲も山肌も赤くなった頃、一気に光芒が天空に延び、北アルプスの全景が姿を
ました。
右手に唐沢岳、左は針ノ木から後立山の峰々を望み、正面、南側はこの後向かう野口五郎。
そして槍の穂先が見えます。
日本にはこんなに素晴らしい朝がやってくるんだ。
しばらく見とれて動けませんでした。
暗い登山道のため、慎重に歩いたせいもあり、山と高原地図のコースタイムよりも時間がかかってしまいます。
・野口五郎岳
このまま野口五郎岳を目指します。
裏銀座の縦走路では、一番標高が高く、圧倒的な面積と体積とで鎮座します。
標高は高いですが、アップダウンは少なく歩きやすいです(疲労を除けば)。
白い砂礫を踏みしめながら一歩一歩。
日が昇るにつれて、じわじわと気温も上がり、暑さで消耗します。
おかしい。身体がおかしい。
足取りも重く、息も上がってしまいます。
今日もかなり気温が上がることを予想し、必要以上に水分を担いでいます。
さらに、水晶岳は別名、黒岳と呼ばれていることを知ったパートナーが、『黒岳なら、黒だけに、山頂でブラックコーヒー(黒珈琲)を飲もう』なんて、ふざけた企みをしたせいで、自宅で落とした1リットルのコーヒーを持ってきています。
標高の高さ特有の、ジリジリと肌を刺す太陽。
顔から汗が滴り落ち、喜怒哀楽のすべての感情が、「疲労」という肉体感覚で消されています。
ただただ進むのみ。
諦めることも頑張ることもできない。
心が折れそうになったタイミングで、こんなに天気が良いのに雷鳥の親子が姿を見せてくれました!
ヒナを心配そうに見守る姿に、少し元気をもらい、進みます。
ピーク手前の窪地に野口五郎小屋が。
すでにほとんどの体力を消耗しています。
ここは、北アルプスでも一番強風の吹く場所だそうです。
現在はテン場がないのも、そういった理由でしょうか。
このあたりでテン泊できたらよかったのに。
水分補給と、トイレを済ませますが、体力は回復しません。
今はただ歩くのみ。
標高2924m、野口五郎岳、登頂です。
野口五郎岳のゴロウとは、「岩がゴロゴロしている」という意味の英語の山岳用語ゴーロ”goro”からきているそうです。
それほどゴロゴロしていません。
ちなみに歌手の野口五郎さんは、野口五郎岳から芸名をとったそうです。
野口五郎さんの「私鉄沿線」を口ずさみながら、水晶岳を目指します。
・水晶小屋へ~三俣山荘まで行けるか!?
さて、今日の縦走路はここからがキツイ!
でもこの絶景!
足元ばかり見ていたらもったいない。
顔を上げればいつも槍穂が目に飛び込んできます。
稜線の先には目指す水晶岳が待っています。
アップダウンが増えてきました。
テント泊装備でこんなところを通過するのは初めて。
一歩一歩の衝撃で岩を崩しそうになるし、大きな岩の上り下りでバランスを崩しそうになるので、大幅にコースタイムが遅れてしまいます。
昨日から感じていたのですが、みんな歩くのが早い。
あるいは早く歩けるから裏銀座に来るのかもしれない。
ちょっぴり自信を失いながら進みます。
どんどん過ぎていく時間。
なかなか巻くことができないコースタイム。
焦りと疲れで、足元ばかり見ていたせいででルートをそれてしまい、気が付けば落石しそうなガレ場に突っ込んでしまい、軽くパニックになってしまいました。
後ろを歩くパートナーまで巻き込んでしまい申し訳なくて涙が出ます。
「ゆっくりで大丈夫だよ~。このままトラバースしてクリアしよう!」と励まされますが、相手も大変なはずなのに・・・と思うと余計に情けなくなります。
なんとかルートに復帰しました。
今日も水分の消費が激しい。
たぶん人生で一番水分を消費した一日です。
東沢乗越のあたりにくると、先は茶色い岩肌に変化します。
せっかく上げた標高ですが、ここからはキレット状のルートとなります。
ポールに頼りすぎると、突いた箇所が不安定だとそのまま事故になるので、慎重に。
ザックの重さで体幹がブレますが、踏ん張ります。
とっくに限界に達していますが、限界を維持しながら進むのは久しぶりの感覚です。
仕上げの階段。
お花達も応戦してくれます。
限界をとっくに超えて、なんとか水晶小屋に到着です。
みんなが「お疲れ様」と声をかけてくれます。
辛い道のりを越えてきた者同士の温かい言葉。
ザックを投げ捨て、ベンチに座り込みます。
ベンチから今日歩いてきたルートを眺めます。
凄く、長い・・・。
これだけ歩いたら、三俣まで行けなくても、今日は満足です。
時間的には、水晶岳をピストンし、三俣山荘へ行ける余裕はあるのですが、体力的に危険と判断し、今日は小屋泊することにしました。
水晶小屋は小さな小屋なので、布団2枚に5人とのことです。
私はシュラフがあるので、土間にシュラフで寝ることに。
狭い布団よりは快適そうだし、三俣まで行けなかった自分への戒めとしました。
夕食は名物の「ごろごろ野菜のカレーライス」
今日は4回戦とのことで、スタッフさん達は大忙し。
それでも笑顔を絶やさず、お客さん一人ひとりに対応しています。
小屋泊ならではのゆっくりした時間を過ごします。
色々な人とお話しができて、とても勉強になりました。
100名山を達成した人、海外登山を経験している人、ブナ立を一緒に登ってきたお姉さん達。
お互いの名前も知りませんが、「山」という意思で繋がれるのって素敵だなと思います。
夕闇が山肌を黒く塗り、かわりに空に宇宙が現れ、長い一日が幕を閉じようとしています。
・コースタイム
烏帽子小屋~三ツ岳・・・1:20
三ツ岳~野口五郎岳・・・3:30
野口五郎岳~水晶小屋・・・4:00
・まとめ
なによりも、地図のコースタイムをあてにしてはいけないと強く感じました。
縦走による疲労の蓄積と、装備の重さのダブルパンチで、コースタイムは大幅に遅れてしまいました。
また、昨年から山の上の異常気象でとても暑く、かなり消耗します。そのぶん水分もたくさん担ぐ必要があります。
テント泊の場合は烏帽子岳を過ぎると、三俣山荘までテン場がありませんので、ついつい無理なプランを立てたくなってしまいますが、水晶小屋から三俣までは、コースタイムは短いものの、鷲羽岳からの下りが長く、疲労が蓄積していると、つまらない怪我をしてしまいそうです。縦走では、簡単な怪我でも、後行程が控えているため、無理は禁物と判断しました。