ホワイトアウトの危険性と対処法
雪山で起こる危険な気象状況「ホワイトアウト」。
その実際の様子と、ホワイトアウトになってしまったときの対処法や、事前に準備しておくと安心なこと、そして、おすすめの装備を紹介します。
今回は年末の木曽駒ヶ岳。
千畳敷カールの安全な箇所まで歩いてみました。
・ホワイトアウトとは
ホワイトアウトとは、雪やガスで辺り一面が真っ白になり、視界がなくなってしまう気象状況のことです。
雪山では足元も雪で真っ白、さらにブリザードで一面が真っ白になると、方向が分からなくなり、さらに平衡感覚までなくなり、行動不能になってしまいます。
よく「高速道路でホワイトアウト」なんてニュースを見ますが、本当のホワイトアウトはそんなレベルではありません!
・ホワイトアウトになると実際どうなるのか?
雪山でホワイトアウトになると、数メートル先も見えなくなってしまいます。
地面も空間も真っ白で、方向も距離も、何もかもわからなくなってしまいます。
大抵は、悪天候時に起こりますので、強風の中、気温もどんどん下がり、不安でパニックにならないよう落ち着くことが大切です。
天気が良ければここまで見渡せますが、
ホワイトアウトだと・・・
見るからに不安。。。
何も見えない。
同じ地点(千畳敷カール)からの写真です。
視界を奪われると、目的の目印も見えないため、方向が全くわからなくなってしまいます。
「さっきまで見えていた目標に向かって進んでいるはずが・・・なんだか曲がってきている気がする・・・」
「こんなに距離があったかな?・・・」
など、人間の感覚はかなりの割合を視覚に頼っていることがわかります。
登山をする方なら、「リングワンデルング」という言葉を知っている方も多いと思います。
人間は視界の無い状況では、同じところを回ってしまいます。
実際に目撃したこともありますし、自分も経験したこともあります。
これを続けてしまうと、体力を消耗し行動不能になる、雪庇を踏み抜いて滑落してしまう、視界が掃けたときに全く知らないところにいた、など=遭難となってしまいます。
このくらい開けた場所では、ホワイトアウト状況下では、どんどん左の尾根に登ってしまうことが多いです。
傾斜がいつもの登山道とおかしいことで気づきますが、状況はかなり危険です。
昔のマタギは、「狐に化かされた」と考え、狐や妖怪が嫌がるよう、タバコに火を点け煙で退散したそうです。科学的根拠はありませんが、自分を落ち着かせるという効果があったのかもしれません。
ホワイトアウトが酷くなると、足元はフワフワし、地面の傾斜がわからなくなってしまいます。
今、登っているのか下っているのかもわからなくなり、平衡感覚がなくなってしまう状態。
なんでもない緩い斜面でも転倒しやすくなり、凍っていた場合そのまま滑落してしまうこともあります。(経験済)
今回も剣ヶ池よりどんどん右の斜面に下っていってしまいそうになるのがわかりました。
ちなみに積雪は1~2m。膝上程度の埋まり方ですが、吹き溜まりは胸まで埋まります。
ワカンを使わなかったため、なかなか進まない(汗)
日頃、他人のトレースを信用して、ルートを確認せずに登っている方が多いと思います。
ホワイトアウトになるような、ブリザードが強烈なときは、あっという間にトレースは消えてしまいます。
撤退しようと後ろを振り返ると、たった今歩いた自分のトレースも消えていることがあります。
これはかなり焦る!
※今回は時々見える稜線の影や、GPSを使って、そして幾度となく登っている「勝手知ったる山」ということで、登れなくもなかったのですが、千畳敷は雪崩の巣!雪崩の危険も察知できなそうでしたので、剣ヶ池付近まで行き、撤退しました。
翌朝、サギダルの手前からカールを横切るように、幅20m、深さ30cmの雪崩が1kmほど確認されました。
撤退して正解でした。
・ホワイトアウトの前に準備をしよう
雪山では、次に挙げる要因が危険を引き起こします。
・-20℃を下回る厳しい寒さ
・ルートファインディングの難しさ
一面が雪に覆われると、安全なルートを探すのも難しくなります。
・歩行の難しさ
アイゼンを装着しても、歩き方ができていないと爪が効きませんし、ピッケルを持っていても、滑落停止の練習をしていても、滑り出したらほとんどの場合止まれません。急斜面で背面から滑落停止する練習まではしていない人がほとんどではないでしょうか?
・雪崩の危険性
・サポートの少なさ
冬季は登山者も少なく、営業している山小屋もほとんどありません。非常時には自分の力で対処しなければいけません。
これらの条件にホワイトアウトが重なると、行動を続けることはかなり難しい状況になります。
すなわちホワイトアウト遭難となってしまいます。
雪山登山は少しずつステップアップして、「危険の手前」の状況を多く経験していくと良いと思います。同じ山でも、昨日と今日、午前と午後では、気温も雪面のコンディションもがらっと変わってしうこともしばしば。一度条件の良いときに登れたからといって、安心はできません。
雪山では、夏とは別のルートで直登することが多いですが、ルートやその周辺の地形を知っておくと、ロストしそうなポイントや、危険個所が予測しやすくなります。
無雪期に、「ここは広いから方向がわからなくなりそうだな」とか、「雪庇が育ちそうだな」とか積雪をイメージしながら登ります。
ついでに吹き溜まりになりそうなところも、雪洞を掘るビバークポイントになるのでチェックしておきます。
※もちろん無雪期に登ったことがあっても、悪天候になることがわかっていたら登らない方が良いです!(きっぱり)
天候の良いタイミングで何度か登っていると、「あれ?雪山って意外と平気じゃない?」と勘違いしてしまいます。
雪山で登山者の多い山域ではトレースもあり、地図が読めなくても登れてしまいます。
それでも天候の変化は急にやってきます。
晴天だったはずが、数時間でホワイトアウトになることもあります。
悪天候の雪山ではグローブを外してスマホアプリの登山地図を開くと凍傷の危険もあります。スマホのバッテリーは低温化に弱く、起動しなくなることもしばしばあります。
またスマホの地図には冬季ルートは載っていません。夏道が雪崩の通り道なんてこともあります。
しっかりとした紙の地図にルートを作成して、コンパスを使う技術が必要です。
人のトレースに頼らず、急な天候の変化でも目的地を見失わないよう、「ホワイトアウトナビゲーション」を作って、使えるよう練習しておくと良いと思います。
作り方はこの記事の後半で説明します。
ホワイトアウトは、森林限界を超えた標高になると、完全に真っ白。
風を避ける遮蔽物もなく、滑落の恐れも出てきます。
まずは、低山の雪山、樹林帯中心のルートで経験を重ねると安心です。
小さな失敗を繰り返していくことで、何かあったときに落ち着いて対応できるようになります。
また、体力がなくて行動時間が長くなってしまうと、天候の悪化に遭遇してしまうこともあります。安全かつ速やかに行動できるよう、何といっても体力作りは大切です。
私の場合は、積雪期前でも、重装備で登って、脚力が衰えないようにしています。
・ホワイトアウトナビゲーションの作り方と使い方
1.紙の地図を用意
「国土地理院地図」や「山と高原地図」、「ヤマタイム」等を印刷。
2.ルート上のポイントを決める
ルート上の分岐点や、目印になりそうな岩や小屋等、積雪期でも目印になる箇所を選定し、「A」「B」「C」・・・と、順に記号を振っていきます。ます。
3.ポイントの標高、磁北線に対するルートの角度、ポイント間の距離、高低差、歩行時間を計測する。
各ポイントの標高、磁北線に対しての角度を記入します。
そして、各ポイント間の距離、高低差、歩行時間を記入します。
歩行時間は、積雪期の場合、夏道のコースタイムと大幅に変わってきますので、その時期の積雪量なども考慮し、自身の過去の記録から算出します。
ちなみに、下山時は、バックベアリングといって、磁北線に対しての角度が、登りのときと逆になります。
コンパスのリングを回転させても良いですが、焦っていて回転を忘れてしまうと、真逆に進んでしまうので、バックベアリングを記入するか、記入せずにコンパスを逆に使うか、統一しておくと安心です。
他には、通常の登山地図と同様に、私の場合は標高100mごとに印をつけておきます。
100m進むのに、何歩で歩けるか数えておくと目安になります。
※手順3は、別紙「ベアリング表」を用意して書き込むと、詳しく書き込むことができます。
私の場合は、グローブをしたまま強風の悪天候で複数枚の紙を取り出すのが面倒なので、全ての情報を地図に書き込んでいます。自分の登山スタイルや、登る山に合わせて作成すると良いと思います。
では、実際の使い方を説明します。
この地図は、木曽駒ヶ岳のアプローチ、千畳敷カールのものです。
※千畳敷カールは雪崩の巣と呼ばれるほど危険な場所になります。
ホワイトアウトのときにアタックすることはオススメしません!
あくまで急な天候の変化に備え、コンディションの良いときにホワイトアウトナビゲーションの使い方を練習します。
はじめに腕時計の高度計をセットします。
高度計は気圧を基準に測定する仕組みなので、天候の変化が激しいときは、気圧も変化しますので、こまめにセットすると安心です。
まずはA地点、冬季登山口から、20°の方角に120m進みます。高低差は10m、ゆるい下りを進みます。時間はひざ下程度の積雪量でトレースが無くても10分程。
B地点は剣ヶ池の西側あたりになります。そこから324°の方角に237m、44mの登りになります。前半はカールの底を進むため高低差はなく、徐々に傾斜が出てくることが読めます。時間は経験上、膝上のラッセルで20分程で、C地点の八丁坂分岐となります。
C地点八丁坂分岐からは、332°の方角に190m。
高低差93m。急勾配を直登するとオットセイ岩です。
オットセイ岩周辺は吹き溜まりが深く、胸辺りまで埋まることもあるので、近づきすぎないよう注意します。
また、サギダル尾根からの雪崩に注意します。
※しつこいようですが、雪崩の巣です。過去数日の積雪量、当日の気温などから、雪崩の危険が予測できる場合は、撤退です。
ホワイトアウトでは、尾根の積雪量やデブリ跡も見えず、雪崩の発生に気づくこともできません!
D地点、オットセイ岩からは、345°の方角を155m。高低差110m。さらに勾配がきつくなります。
「ここから先はボトルネック上の谷地形で、爆風になったなぁ。」
「南斜面の強風ポイントということは、アイスバーンにっているかもしれない。」
と、無雪期に登ったときを思い出すと危険が予測できます。
E地点、乗越浄土からは288°の方角に、128m。高低差は12m。ほぼフラットに進みます。途中に管理小屋があれば正解。
ちなみに、なぜA地点からD地点まで真っすぐ進まないのか?
B、C地点は目印がないからわかりにくくないのか?
と思うかもしれませんが、千畳敷はサギダル尾根からカールを横切るように雪崩が発生します。
それを避けるために、カールの淵を右に巻く必要があります。
B地点までは東側の谷を下りないようフラットなルートを進みます。
C地点までは、東側の尾根に登らないよう、ここもフラットなルートを進むことで、おおよそ辿り着くことができます。
と、こんなふうに使います。
実際は、山まので真っすぐに歩けるわけではないですし、数値は机上の理論値なので、あくまでおよその目途にします。
また、実際にやってみるとコンパスが使えないと、まったく役に立たないことがわかると思います。
GPS端末と併用するとさらに精度が増します。
そして何より、このホワイトアウトナビゲーショを作ることで、事前にルート状況を把握でき、危険個所などのイメージトレーニングになるので、爆風、視界ゼロ、超低温下の過酷な状況で慌てることが少なくなる効果もあります。
・ホワイトアウト時の対処法
何より、動かないことが大切です。
数メートル先に避難小屋があるとしても、見つけるのは難しいです。
ホワイトアウトナビゲーションや登山GPSで行動できるレベルの視界があれば良いですが、足元を見ばかり見て歩いていると、顔を上げたら数分で真っ白になっていた、仲間とはぐれた、なんてことは良くあります。
そうなると余計に焦ってしまい、リングワンデルングになり、冷静な判断もできずに、体力を消耗してしまいます。
まずは、コンディションを見極め、予定の時間内に、行動再開できるのかタイムリミットを決め、次の行動を決めます。
ビバークを決めたら、場所を探します。
ホワイトアウトになる状況は、森林限界を越えた標高の場合がほとんどなので、雪洞を掘ったり、岩の影で風を避けられそうな場所を探します。
雪洞は地面の下方向に穴を掘り、上からツェルトで蓋をすると簡単です。
横穴を掘るのは、雪質によっては崩れやすく、時間もかかってしまいます。
また、雪が少ない、あるいはガチガチに凍っている場合、しかもそこから動けない場合は、風を避けられるような岩を探しても良いと思います。
一度、-25°を下回る状況で、小さな岩しかない場所でビバークをしたことがありますが、一晩中、強風で首を倒され、体感温度はどんどん下がり、危険な状況でした。
この、場所探しによって、その後のビバーク時間の快適さが大きく変わってきます。
・持っててよかった!おすすめの装備
雪山登山、三種の神器のひとつ、スノーショベルです。
ビーコン、ゾンデ棒を合わせて、アバランチギアとして必携です。
救助以外にも、テント場の整地や雪洞掘りに大活躍します。
なるべくコンパクトで軽く、シャフトが取り外しできて、伸縮するものがおすすめです。
私の使っているLIFE LINKのガイドショベルは、頑丈でフラットで使いやすいのですが、いつも携行するにはやや大きすぎます。
山で使わせてもらった中で、人におすすめするならコレ↓
重量、耐久性、掘りやすさのバランスが一番良かったです。
もっと軽量のものもありますが、春先のガチガチの雪で壊れてしまうこともあります。
スマホのGPSは雪山ではタッチパネルの問題や、バッテリーの消耗の速さで、信頼性に欠けます。
登山専用の端末は、グローブをしていても使い安く、頑丈でおすすめです。
日頃から起動させて、使い方を忘れないようにすると良いと思います。
現行機種ではこのあたりのスペックで十分です。
私は海外版のものを使っていますが、中学英語レベルでも問題なく使えます。
日帰り登山でも必携アイテムです。
強風のときに設営は難しいですが、くるまって凌いだり、雪洞の入口に被せて使います。
また、掘り出した雪をどんどんツェルトの上に乗せて、まとめて移動することもできます。
いザというときの明かりはヘッデンがあれば事足りるのですが、雪山でのビバークは、とても心細い長い時間になります。
キャンドルランタンを灯しただけで、視覚効果もあり暖かく感じるから不思議です。
寝落ちしてもチロチロと優しい明かりが雪洞内を照らしているのを見るとほっとしました。
UCOのキャンドルランタンは9時間燃え続けます。
「この火が消える頃には日が昇るな」と考えると、心強くなったことを思い出します。
・YouTube
YouTubeにもアップしました。
実際のホワイトアウトの様子をご覧ください。