宝剣岳(ほうけんだけ)標高2,931mの岩峰からの絶景
宝剣岳は、中央アルプスの登山拠点、千畳敷カールから見上げると一際目立つ岩峰です。
標高は2,931m、何処から見ても一目でわかる険しい岩場の山です。
・宝剣岳のルート
千畳敷カールからは、①八丁坂から乗越浄土を経由するルートと、反対に②極楽平から登るルートがあります。
日帰りの場合は、極楽平から登ると、変化に富んだルートが楽しく、逆にテント泊の重装備や初心者の方は、八丁坂からお花畑を楽しみながら、乗越浄土を経由するのがおすすめです。
中央アルプスの主峰、木曽駒ヶ岳に登るときに併せて登る方も多いのですが、今回はテントを担いで頂上山荘でのんびり過ごし、翌朝早朝に宝剣岳のみをアタックしようと思います。
・ルートの詳細
千畳敷へはマイカー規制のため、麓の「菅の台バスセンター」からバスと駒ケ岳ロープウェイ」を利用します。
菅の台バスセンターは、グリーンシーズンの土日祝日はとても混雑し、いつもバス待ちの行列ができます。
この時期の始発は5:30
今回も前夜に到着し車中で仮眠を取りました。高原というだけあって、車中泊でも暑さは感じることなく快適に眠ることができます。
ひんやりした高原の空気を吸いながら、バス停の行列を見渡すと、装備は日帰りのお客さんがほとんどで、テント泊の人は2割ほどかな? という印象です。
この混雑具合なら、バスは臨時に本数を増やしてくれるはずです。
バスは道幅の狭い山岳道路をくねくねと進み、断崖スレスレをカーブする運転手さんのドライビングテクニックに関心していると、終点「しらび平」に到着。
ここから駒ヶ岳ロープウェイに乗り、約7分間の空中散歩を楽しんだら、標高2612m「千畳敷」駅に到着です。
気温は11℃。
駅にはホテル千畳敷が併設されています。
2612カフェでは軽食やコーヒーなども注文できるので、ここで朝ごはんも素敵ですね。
登山届を提出し、身支度を整えたら重たいザックを肩に食い込ませ建物の外へ。
毎度のことながらその景色に「はぁ~」と感嘆の声が出ます。
一面に広がるカールには色とりどりの高山植物が咲き、「木曽駒ブルー」の空と、城壁を思わせる岩肌のコントラストが目に飛び込んできます。
登山道は、まずは信州駒ケ岳神社の鳥居を潜り、カールを一周する遊歩道を進みます。
ウォーミングアップのつもりで歩くと、すぐに八丁坂登山道の分岐に。
ここからは急登となり本格的な登山道が始まります。
日本最高の標高に位置するロープウェイ駅「千畳敷」。
観光のお客さんが、軽い気持ちでジーパン、スニーカーで登ってきてしまうのも良く見かけます。ロープウェイが簡単に雲の上まで運んでくれますが、ここは標高3000メートル級の高山です。
雨が降ったら大変!
傾斜はどんどん増し、太ももに心地よい負荷がかかりますが、振り返ると、駅に併設された赤茶色のホテル千畳敷が、可愛らしいマッチ箱のよう。
緑の絨毯が広がるカールに点々とある白い岩は、草原で羊が昼寝しているように見えます。
遠くには、糸をひいたような南アルプスが夢のように淡く浮かんでいます。
登山道は、脇にシナノキンバイやクロユリ、ハクサンイチゲなど、可愛らしく咲き乱れる「お花畑」の中を進むので、テンションも上がります。
八丁坂の中間地点には、オットセイの形をしたオットセイ岩が、のこぎりのようなギザギザのサギダル尾根を見上げています。
ここまで登れば乗越浄土はあと少し。
「うわ~、もうダメだ~」
「疲れた~」
と所々で休憩しているお客さんの悲鳴が聞こえてきますが、なぜかみんな笑顔。天空の楽園ではみんなが笑顔になります。
千畳敷から30~40分で乗越浄土に到着です。
尾根を伝ってきた風が体の熱気をさらってくれます。
大展望が広がり、右はなだらかな稜線の伊那前岳。
正面は天狗荘の向こうに中岳。
左には澄み切った空のその切っ先を伸ばしている宝剣岳の雄姿が見えます。
ルートは宝剣山荘の裏手を進みます。
台形の可愛らしいフォルムの宝剣山荘は、オリジナルグッズやソフトクリームがおすすめです。
宿泊すると、ボリュームたっぷりの美味しい晩御飯が最高です。
そして何より小屋の窓からは、伊那前岳の稜線が切り取る夜空に、酔うほどの数の星を見ることができます。
小屋からの景色は、その山域の魅力が一番詰まっているように感じます。
宝剣山荘を過ぎると、ルートは中岳を越えて進むのが一般的ですが、私は大抵巻道を進みます。
巻道は、地図上は破線ルートとなっています。
険しい岩肌の狭いルートで、足元はすぐ木曽谷に切れ落ちていますので、
強風のときや、慣れていない方は使わない方が良いと思います。
それでも、木曽谷の雲海に浮かぶ御嶽山や、緑の稜線に白く線を引いたようなクラシックルートの眺めに誘われて、いつもここを通ります。
巻道を抜けると、私の第二の我が家、頂上山荘に到着です。
・テント場について
頂上山荘のテント場は、70張程が幕営可能です。
水場もあり、山荘に併設されたトイレはとてもキレイです。
携帯の電波も良好です(Docomoで確認)
天気予報では夕方から雷雨となっているので、水の溜まらなそうな場所で、風向きを確認して設営します。
石でしっかりガイラインを固定します。
ここから駒ケ岳頂上はすぐなのですが、今回はこの大好きなテン場で、ゆったり流れる贅沢な山の時間を過ごします。
このテン場で過ごすことを目的に登ってきたことも何度もあります。
「今週は疲れたから、キソコマでのんびりしようかな」なんてこともしばしば。
ロープウェイで標高が稼げて、行動時間も短いので、装備を削ることなく、大きい折りたたみ椅子を持ってきて昼寝したり、パーコレーターでコーヒーを沸かしたり、家庭用フライパンを持ってきてお好み焼きを作ったりすることもあります。
テント場の周辺は、ここでしか見られないコマウスユキソウや、高山植物の女王コマクサや、かわいらしいチングルマなどの宝庫でもあります。
カメラを持ってお散歩していると、西駒への分岐まであっという間に登ってしまい、結局山頂に向かうこともあります。
2021年夏現在は、環境省による雷鳥の保護・繁殖活動がされていて、運動させている雷鳥親子の姿を間近に見ることができました。
まわりのテントからの笑い声や、何かを炒める美味しそうな匂い、残雪を撫でてやってくる冷たい風。人間と自然のいろいろな営みが微笑みかけてくるようです。
人懐こいイワヒバリ(カヤクグリ?)の鳴き声は、夏の到来を喜んでいるようです。
五感をフルに使って「夏山」を感じていると、落雷の音が轟き、私はあわててテントに逃げ込みました。
小屋のスタッフさんの予報通りの時間に雷雨となり、自然の美しさは厳しさの中にこそ存在するということを認めます。
大粒の雨が降ったり止んだりしながら、テント場に夕闇が訪れると、しっとりとした湿度の高い空気が山の匂いを濃くします。
色とりどりのテントの明かりが、一つまたひとつと消える頃、私の意識も星空に吸い込まれて深い眠りがやってきました。
幕営数・・・70張
水場・・・あり(山荘)
トイレ・・・あり(山荘)
携帯電波・・・あり(docomoは確認済)
売店・・・あり(ビール、缶チューハイ、お茶、コーラなど、お菓子、カップ麺)
・宝剣岳へアタック
冷たい空気と地面からの冷えで目が覚め、テント泊ならではの朝の気配が。
ここに来るときいつもそうするように、防寒着を着込んだら、トイレを済ませ、まだ暗い中ヘッデンを点けて中岳に向かいます。
ゴリッ、ゴリッと岩を踏みしめて、まだ起きていない筋肉に無理やり酸素を送り込み、息を切らしながら山頂へ向かいます。
段々とグラデーションに変化する空。
一瞬、真っ暗になった次の瞬間、地平線を水平に、そして天空に放射状に光芒を放ち、太陽が姿を現しました。
夏の朝。
今日目指す宝剣岳は、取り付きから上のルートは狭く、鎖場の連続する岩場をよじ登るルートのため、すれ違いが難しく渋滞になります。
渋滞を避けるため、日帰りでやってくるお客さん達が登ってくる前にアタックします。
アタックザックに水分と救急グッズなどを入れて、ヘルメットを装着。一面が朝日でオレンジ色に染まり、私の顔もオレンジ色に染まり、岩はまだ冷たく、ひんやりした空気の中、出発します。
巻道を進み、まずは宝剣山荘まで戻ります。
宝剣山荘の裏手には、ガスボンベが並び、荷揚げヘリのネットやフレコンバッグが静かに朝日を浴びています。
山荘の脇が取り付き点の分岐です。
有名な「天狗岩」の向こうは木曽谷の雲海にぽっかり浮かぶ御嶽山。
ルートはすぐに狭くなり、鎖場の連続となります。
スタンスは豊富なので、鎖を使うほどではありません。
しっかり岩を掴んで三点確保で進みます。
凍結破壊作用によって割れた花崗岩群の中を進みます。
核心と言えそうなのは、頂上手前のトラバース箇所です。
私の身長だと、一歩目が次のステップまで離れていて大股になりますが、ここをクリアすればあとは高度感があるだけです。
それでも先行していた人は、焦ってしまったようで、足さばきが崩れてしまって、見ているとヒヤヒヤする場面もありました。とにかく落ち着いて。
宝剣山荘から20分程で山頂です。
標高2,931m。
山頂には祠があり、大きな岩が真上に伸びています。
岩の上に登る人もいますが、ステップが遠く、プッシュで登っても手足の短い私は降りるのが怖いので、ここまで。
山頂からは、駒ケ岳頂上、御嶽山、三ノ沢岳、空木岳、遠くは南アルプスに富士山、そして八ヶ岳まで、ぐるっとパノラマが広がります。
山頂はとても狭く、一人分のスペースしかありませんので、写真撮影は順番待ちで譲り合いながら、終わったら速やかに移動します。
狭いスペースに無理に入ってきてしまい、岩から降りられなくなっている方も・・・(困)
下山時も、バックステップを使い分け、三点確保ができれば問題ありません。
ちなみに、悪天候時はこの一帯は宝剣岳に雷が集まりやすいです。
鎖がスパークするような怖い場面もありますので、天気の悪いときは無理せず撤退ですね。
鎖場の連続・・・三点確保で
核心部のトラバース・・・一歩目が大股になる
悪天候時は雷に注意
山頂はとても狭いので譲り合って
ヘルメット推奨です
千畳敷までの下山ルートはこちら↓
・まとめ
中央アルプスで一番美しい景色と言われる千畳敷カール。
まさに天空の楽園という表現がぴったりで、その一面に広がるお花畑から見上げると、特徴的に鋭く尖った岩峰が宝剣岳です。
長閑で風光明媚なイメージの中央アルプスの山々の中で、南側の仙涯嶺と並び、険しい岩山の宝剣岳は、岩登りの楽しさが味わえる山です。
主峰、木曽駒ヶ岳を中心に一帯は様々なルートがあり、それぞれに見どころがありますので、おすすめの山域です。
・今回の動画
ルートの詳細はyoutubeにもアップしていますので、是非ご覧ください。